第10話 インテリジェンスクオリティ

祭壇の前だ。

神への怒りがある。

なぜなら融通のきかない神の基準の能力を与えられているせいで何度も死んでしまったからだ。

今回も少し考えると熱でも出そうになる。

しかし有意義に利用しなければ、言語もわからない私は生きていく事は出来ないのだ。

今回はあえて神を利用してやろうという気概で挑むと心に刻んだ。


さて、ここに祭壇があると言う事は神と対話する儀式場という事だろう。

神が言う通りおそらく私達は相性がいいので真摯に祈れば声も届くだろう。


「神よ…ここに自然な形で知識人を呼んでくれ。」


祭壇が柔らかく光り、すぐに背後のドアが開いた。


白髪の壮年の男性だ。

ローブに装飾をいくつかつけており、常識的に考えれば勲章だろう。

神が言った白い花の意匠もあり、それならば神父や牧師などの神職だと考えられ、神が呼んだ人選としても妥当と思える。

勲章の数から地位のある人なのだろう

傍らに本を数冊抱えており、そこに描かれた表紙を見る限り子供用の絵本の様なものだろう。


「 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※?」


なるほど…疑問系はこちらも語尾がやや上がる形なのだな。

恐らくだが、誰かいるのか?とでも話したのだろう。

私はあえてゆっくり、そのままおうむ返しをした。


「 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※…?」


そして自分を指差しラルフと名乗った。


神に祈った通り知識人の様で言葉が通じない事を察してくれた彼は自分を指差し、サシュマジュクと名乗った。


なるほど…

神がつけた私の口に出すのも憚られる名前は、落語の寿限無の様にありがたい神職の名前をいくつも合体させたものなのだろう。

…ぺぺぺぺという名のものが居るのか…?


「さしゅまじゅく…」

名前を呼び本を指差し、自分を指差した。


優しい笑顔で本を差し出してくれたサシュマジュクから頭を下げながら受け取り本を開いた。


おぉ…文字のテーブル表があるな…ありがたい。


サシュマジュクが一つの文字を指差し


ラゥ


と言った。


次は


ルゥ


そして



ラルフだ。

私の名前の文字を教えてくれたようだ。それから34文字一つ一つ指差しながら発音を教えてくれる。

どうやら表音文字のようで単語さえ覚えればなんとかなりそうだ。

本をパラパラとめくり単語を推測して拾い、サシュマジュクに話しかけた。


「そちらの、ほんも、かりる、かのうか」


サシュマジュクは目を見開き

「驚いたな…」

と言った。


恐らくサシュマジュクは教育者なのだろうか、それとも神がそう誘導したのか、幼年少年期の子供に教える教科書の様なものを持っていたようで、それをめくりながらいくつか質問をし、この世界の言語をある程度習得したと言っていいだろう。

高い知能を得たおかげだ。


「ありがとう

お陰で言葉が少し解る様になった。

貴方のおかげだ。」


本当にありがたい。


「私は

ラルフィード・サシュマジュクシュルルペペペぺ・チャチュムラッチャヌボンボ

という

助かった。」


敬意を込めてフルネームで名乗った。

理解を深めた事で名乗ることが出来たのだ。


しかしサシュマジュクは眉間に深く皺を刻み

「貴様、何者か…」

と言い懐から杖を抜いた。


言語は習ったが文化が解らないので

一体なにが彼の怒りを起こしたのかが解らない。


「何か気に障ることを言ってしまったなら申し訳ない。

そんなつもりはないのだ。

言葉も今覚えたばかりで無礼もあるかもしれないが、ただお礼を言いたいだけなのだ。」


サシュマジュクの唇が震えている。

全然怒りが治っていない様子だ。


「その名前はどういうつもりかと聞いているのだ!」


なんだと…!

この名前は神から問題ないとお墨付きも貰った名前だ。日本で言う桜さんみたいなものだと。


いや、先程推測した通り違うのだろう。

神聖な名前が詰まった名前だ。過剰に。

神からしたら問題なくとも、彼ら神職者にとっては大問題かもしれないのだ。


「よりにもよって神の名を語るなど…。」


比類ないほどに怒っている…!

髪は逆立ち目はバキバキだ。


「何者が!ラルフィード様の名を!語っているのだと聞いてきるのだ!」


ラルフィードって神の名前なのか…。

どうしたものか。

元々言語を習った時は穏やかなナイスミドルだったのだ。

もう誤魔化すことなど出来ないだろう、その上高い身分が伺える。

今後に関わるので正直に話すしかないだろう。


「この名は神から頂いたものなのだ。

神も問題がないと言っていた。

申し訳ないが怒りを収めて頂けないだろうか。」


ハッと息を呑み

「神が…。」

といい目を瞑った。

そして懐から紋章を出し私に渡して来た。


「聞きたいことが山ほどある。

出来れば街へ行き私の家で待っていてもらえないだろうか。

この紋章を門のところで見せれば案内してもらえるだろう。」


これ以上ここで話し続けても誤解が深まるだけかもしれないな。

少し間を開けた方がいいのは私も賛成だ。

紋章を受け取った私は頭を下げ、そのまま教会の外へ向けて歩き出した。


ドアを開けたところで親切にしてくれたお礼をしようと振り返ると、巨大な光の塊が飛んできていた。


「神の名を語る悪魔め!

外の肉片も貴様の仕業なのだろうが!

このサシュマジュクが粛正してくれるわ!」


デカい光の玉の中で塵になりながらはこう思った。


その肉片、僕のやつじゃない?と。

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