第84話 レベル上げ作業の終わり


「きぃ、さぁ、まぁぁぁぁっ」


 数分かけて目覚めるや否や、ゾンビの如く足元まで這いずってきた真月。

 まだ三半規管が揺れてて立てないなら、素直に大人しくしてろよ。


「今の技は、なんだ……初めて見るぞ、クソッタレが……!」

「そいつは当然」


 人前だと初めて使ったからな。

 むしろ見たことある方が怖い。


 しかし、だ。

 そのものは、既に知り得ている筈。


「やってることの半分は、アンタの『水翔すいしょう』と同じだよ」


 足裏から魔力を放出させて水流を作り、そいつで地面を滑走する。

 最高速こそ通常の走行には及ばないが、初速や小回りに優れた緩急自在の移動法。


 ちなみに命名は真月本人。

 ネーミングの是非は兎も角として、なかなかの代物。


 取り分け、魔剣を構えたまま前後左右ほぼ制限無く動き回れるってところがいい。


 普通、走るという行為には大なり小なり隙が伴うものだが、この方法なら話は別。

 移動しつつ迎撃、追撃へと即座の移行が可能。

 加えて、初見ではまず水流の軌道を見切れない。


 もっとも、使いこなすには相当のバランス感覚と体幹が必要だけど。


「……魔力の放出に、あれほどの攻撃力を持たせられると?」


 どこか疑わしげな視線。

 自身も修めている技術なだけに、性質はよく理解している模様。


って言ったろ。俺の場合は、一点に集中させた上で放出したんだ」


 指先に蒼炎を灯し、側方へと解き放つ。

 生じた熱線は壁際のテーブルに置かれた空き缶を貫き、跡形も無く燃やし尽くした。


「ま、ちょっとした小技さ。たぶん力天使ヴァーチャーあたりまでにしか通用しない」

「つまり第五位以下の天使なら素手で倒せるということではないかぁ……!」


 ぐぬぬ、と顔を歪める真月。

 魔力の一点集中が極端に苦手な自分では修得の難しい技だと察した模様。


「うおおおお……!! 出ろ、この、ビーム出ろぉぉぉぉ……!!」


 ちなみに向こうでは、指先に蒼雷を迸らせた伊澄がそれを射出させようと悪戦苦闘中。


 アイツは真月と逆で、集中は得意なんだが放出が下手なんだよな。

 電気の特性を考えると、致し方ない話だけれど。






 飲みかけのコーラをジャンヌに手渡す。

 周りには缶だけ浮いてるように見える筈だが、誰も気にする様子は無い。


 …………。


「ところで……そろそろだと思うんだ」


 ここ数日、折に触れて頭の片隅で考えていたことを、なんとはなし切り出す。


「何がだ」


 頭に氷嚢を乗せた真月から、不貞腐れた様子で聞き返される。

 また連敗記録を更新する羽目になったせいか、かなり不機嫌。


「さっき真月も言ってたが、こんな風に訓練のために集まるようになって、数ヶ月経つ」


 ここしばらくは何事も無い日々が続いたため、じっくり腰を据えて取り組めた。


 魔剣躰術の練度。

 身体強化エクストラ聖炎ウェスタの微細なコントロール。


 現状持つチカラを十全に引き出せるだけの技術は、身につけられたと評していい。


 重ねて、書類上こそ今月末まで学生の身分だが、卒業式は先週片付いた。

 力量的にも時期的にも、次の段階へと進むには適当な頃合い。


「──ボチボチ、魔剣士協会に顔を出そうと考えてる」

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