第65話 28日後…①


 週一の頻度で第五支部を訪れ、共同での訓練を行うようになり、四週間が過ぎた。

 進捗状況は、やはり順調と言えば順調、難航中と言えば難航中である。






「はあァッ!」


 通りの良い発声と共に押し迫る、剣身に幾何学模様が刻まれた無銘レギオン

 右方からの横薙ぎ。重心の据わった足腰の捻りと共に放たれた、鋭利かつ重い一撃。


 その太刀筋に左手を割り込ませ、掌で刃を弾いた。


「ぐっ──るぁ!」

「ン」


 弾かれた反動をへと利用し、右足の爪先を軸に一回転。

 今度は左方から、初太刀よりも一層と鋭く薙ぎ払われる。


「──なら、こうだ」


 左肘に魔力を集中させ、弾くのではなく受け止める。

 クッションのように剣戟の勢いを殺し、更なる連撃へと繋げるための起点を潰す。


「ごっ……!」


 間髪容れず、がら空きとなった鳩尾に蹴り。

 加減したのでダメージは無いものの、床と並行の軌跡で数メートル後退させる。


「ッッ……なんのォッ!!」

「!」


 吹き飛びながら、空中で体勢を立て直す伊澄。

 腰だめに構えた魔剣へと魔力を注ぎ、蒼雷エネルギーを纏わせる。


 着地と同時、足を開いて踏ん張りを利かせ、振り抜かれる一刀。

 スパーク音を撒き散らす半月形の飛斬スパーダが、俺めがけて飛来する。


「大した体幹だな」


 けれどの時間が短かったせいか、明らかに威力不足。

 密度も薄く、範囲こそ広いが十分に対処可能。


「シッ!」


 魔力を集中させた右脚で、側面から蹴り上げる。

 爆ぜ砕け、四散する蒼雷エネルギーの塊。


 が、その直後──、と歯噛みした。


「なるほど」


 視界に映る、大上段で魔剣を構えた伊澄の姿。


 既に数秒間のチャージを行ったらしい剣身には、十分な量の蒼雷エネルギー


 ──こいつは一本取られたな。


 今の飛斬スパーダは本命である二発目を用意するまでの時間稼ぎ。

 低密度かつ広範囲に放ったのも、回避の選択肢を潰すため。

 ああ、ついでに目隠しもか。


「はああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 コンクリの床が揺れるほどの踏み込みを乗せた唐竹割り、と言うか面打ち。

 太刀筋の延長線上となる軌跡を描き、真っ直ぐ向かって来る一閃。


 ──どーすっかな。


 避けるには少しばかり出遅れた。

 防御もしくは迎撃を図ってもいいが、アレを手足で受ければ流石に無傷では済むまい。


 強欲グリードに属する魔剣の基本性質は、見ての通り電気。

 身体強化エクストラの力場を貫通されれば、感電は必至。


〈肩こりが治りそうね〉


 ジャンヌの軽口が頭蓋の内に響く。

 生憎ながら日々の快眠快食のお陰で、肩こりや腰痛とは無縁だ。


「チッ……」


 好きこのんでリスクを背負うのも馬鹿らしい。

 僅かに躊躇するも、甲高く指を鳴らす。


 手を伸ばせば触れられる距離まで迫った飛斬スパーダへと着火し、瞬く間に燃え上がる聖炎ウェスタ


 圧し固められた蒼雷エネルギーを余さず覆い、奪い尽くす、銀色の炎。


 そうして──俺の鼻先に届く間際、消滅した。


「……ピノキオなら、危なかったかもな」

〈乾いた木材に電気は通らないんじゃない?〉


 確かに。

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