第63話 同調率②
〈……算数なんて出来なくても、別に人生困らないし〉
指を使ってもうまく計算できなかったらしいジャンヌが、不貞腐れたように呟く。
無学こそが火刑に処された遠因のひとつだった奴のセリフとは思えん。
〈ま、正確な数値なんて瑣末ごとは兎も角〉
誤魔化すように、ひとつ咳払い。
小学生向けの四則演算ドリルでもやらせるべきかな。
〈私がこうして表に出られるのは、ジンヤとの同調率が極めて高いお陰よ〉
もちろん恩恵はそれだけじゃないけど、と説明が続く。
〈魔剣を介さない
延いては離れ牢の存在探知も、ひとえに同調率の高さがあってこそ成せる業だとか。
〈逆に同調率が低いと大雑把にしかチカラを扱えない上、属する系統の特色に偏るわ〉
例えば、以前真月とここでやり合った際に撃たれた拡散型の
アレもあえて密度を薄めたワケではなく、操作が下手な場合ああなってしまう模様。
〈高密度で魔力を放出する行為も、実のところ結構な高等技術なのよ?〉
「そうだったのか?」
〈そうだったのよ〉
系統的には『
加えて、よほど同調率が高くなければ、とても実戦での使用には堪えないらしい。
「なんでもっと早く言わなかったんだ」
〈最近まで忘れてたし、第一たいした話じゃないもの〉
「そうか?」
〈そうよ〉
確かにそうかもな。
同調率うんぬんを知ってたところで、今日までの流れが何か変わったとも思えないし。
「漫才は後にしろ。それより、私の同調率とやらも分かるのか」
〈大まかには。ついでに第二段階の魔剣なら、どんな悪魔を飼ってるのかもお見通し〉
ジャンヌが強く思い浮かべたからか、俺の頭にも情報が流れ込む。
大江の盗賊、酒呑童子。
平安時代に数多くの配下を従えて暴れ回り、かの源頼光に討たれた悪鬼。
チカラの系統は
保有する能力は『毒酒』。
……魔剣を抜く際に呼んでいた銘の通り、やはり酒呑童子だったか。
かの玉藻前とも同列で語られる、日本三大妖怪の一角。
悪魔の格が違うと豪語してたのも、まんざらハッタリじゃなかったみたいだな。
〈貴女の場合は約四割ね。かなり高いけど、その程度じゃ意思疎通もままならないでしょ?〉
「……なら、同調率を上げる方法は」
〈無いわよ、そんなの。言ったでしょ、思想や精神性の噛み合いで決まるって〉
つまり気分次第で多少の変動はあっても、基本値はほぼ固定か。
〈あー、でも、そうね。根本的に考え方を一新させれば、ワンチャンあるかも〉
どうしろと。
人間の根っこなんて、滅多なことで移ろったりしないだろ。
〈インドにでも行って人生観変えてくれば?〉
恐ろしくテキトーな助言。
さては真面目に取り合う気が無いな。
「魔剣士は海外に行けない。そもそもトイレが汚そうな国には行きたくない」
仏頂面で返す真月。
なんかアテが外れてしまったみたいで、ちょっとだけ申し訳ない。
〈……ま、安心なさいな。同調率が低くても、鍛錬次第で技術は身に着くから〉
聞こえるか聞こえないかの境目で、たぶん、と語尾に添えられる。
〈じゃあ私は、このへんで。ジンヤも辛いと思うし〉
まだ大丈夫だが、と口を開く前に、俺の中へと消え去るジャンヌ。
細々と説明するのが面倒になって逃げたか。
「ふむ……つまり練習あるのみってコトだな!」
勤勉にもメモなど取っていた伊澄は、意気揚々と型の反復練習を始めた。
ポジティブな奴。
「…………チッ。それしか無いか」
一方の真月も、再び長刀を足元に突き立て、顔の前で拳を握り締める。
てっきり癇癪でも起こすかと思いきや、ちょっと意外。
「ふっ! せい! とぁっ!」
「ぬぐぐぐぐぐぐ……ッ!!」
ひとまず俺は座ったまま、そんな二人の様子を眺めることにした。
けっこう疲れたし。
「がんばれー」
「おう!」
「黙れ気が散る!」
いっそ芸術点を進呈したくなる域で正反対なリアクション。
人としての度量が窺えるってもんだ。
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