第62話 同調率①


〈貴方たちにとっては、はじめまして〉


 向こうからすれば唐突な登場に真月と伊澄が呆然と立ち尽くす中、一礼するジャンヌ。

 まあ俺も驚いてるが。完全な実体化が出来るとか聞いてないぞ。


〈私はジャンヌ・ダルク。ジンヤが持つ魔剣の悪魔〉


 いや。それより、まず突っ込むべき点は。


「どうして黒髪なんだ」

〈あら、知らなかった? 私の髪は元々黒いのよ? 普段の金髪は、ただのオシャレ〉


 ……そう言えば、そんな説もあったな。


 名を知って以降、ネットで拾える情報程度には歴史や伝承を調べてある。

 確か署名入りの手紙の中に黒髪が挟まってたとか、なんとか。


「お前の肖像は一枚残らず後世に描かれたものだ。正確な容姿は伝わってない」


 鎧を着て男装した短髪の美少女、くらいが共通のイメージか。

 目の前に居るのは、腰に届くほどの長髪だけど。


「ジャンヌ・ダルクって……え、あのオルレアンの乙女!? 本物!?」

〈ええ。でもサインなら書かないわよ。署名にはロクな思い出が無いから〉


 異端審問法廷で宣誓供述書の内容をすり替えられたってアレか。

 名前くらいが精一杯の文盲だったらしいし、そんなもん確かめようがないよな。


「……じゃんぬ? 一体どこの神話の悪魔だ?」

「えぇ……ジャンヌ・ダルクを知らないって、流石に……そもそも悪魔じゃないし……」


 真月の無知さに若干引き気味な伊澄。

 大目に見てやってくれ。リオさん曰く、高校を半年で叩き出された中卒なんだ。


「よく分からんが……その女が貴様の魔剣に宿る存在だと?」

「ああ」

「どうやって実体化させた」

「……さあ?」


 俺に聞かれても困る。

 半透明な姿で出て来る時だって、ジャンヌ自身の意思によるものだし。


〈そうね。順を追って話してあげる〉


 足元がふらつく。

 何やら急に身体が重くなってきた。


〈ただし手短にね。私が完全に表に出ると、ジンヤに負担がかかるから〉


 道理で。






 床に座り込む。

 下手に魔剣技アーツを使うより疲れるな、実体化これ


〈まずこっちから聞くけど、貴方たち、自分の悪魔としたことは?〉

「……名前を聞き出す時の一度だけだ」

「俺は夢で何度かそれっぽいのに会ったけど……話までは、まだ」


 真月と伊澄の返答に、でしょうね、とジャンヌが首を振る。


〈魔剣の性質は宿す悪魔次第。チカラの多寡は今までに喰らった魔力次第〉


 そして、と一拍挟まれる。


〈どれだけチカラを精微に操れるかは、悪魔と魔剣士の調次第〉

「同調率……?」


 怪訝そうに真月が聞き返す。


〈要は相性よ。基本的には、互いの思想や精神性が噛み合うほど高くなるわ〉


 ジャンヌは脚を組んで空中に腰掛け、人差し指を立てた。


身体強化エクストラ魔剣技アーツ開門ゲート。魔剣がもたらす全ての異能は、同調率で精度が左右される〉


 その指先に銀炎が灯る。

 炎は瞬く間に激しく燃え上がり、鳥を模って周囲を飛び回り始めた。


〈例えば、ジンヤの同調率は、そうね。パーセンテージに当て嵌めるなら──〉


 少し考え込む仕草。

 まあ、それなりに仲良くやれてるつもりだし、七〇はあるだろう。


〈一二五パー、くらいかしら〉


 上限振り切ってるじゃねーか。

 算数苦手かよ。もっぺん計算し直せ。

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