第50話 閑・異彩の魔剣士


「──くそったれがァッ!!」


 ジンヤを帰らせた後も、ユカリコは地下室に残り、激昂のまま暴れていた。


「よくも! 私を! コケにしてくれたな!」


 刃筋も立てず、力任せに叩き付けられる切っ尖。

 その都度、壁や床が深々と抉れ、怒気の強さを形に残す。


「ちょっとイイ男だったから甘い顔をすれば! 調子に乗って!」


 なおジンヤ本人に言わせれば、甘い顔をされた記憶も調子に乗った覚えも無い。

 もっとも、彼も彼でユカリコとの接し方が完璧であったとは評し難いが。


「ああムカつく! 見た目が割と好みなせいで余計ムカつく!」


 息を切らせ、髪を振り乱し、喚き散らし、また一刀。

 細かく砕けたコンクリートの破片が、八方へと飛び散る。


 ──懐のスマホが飾り気の無い着信音を響かせたのは、その直後。


「チィ……なんだ!? 取り込み中だぞ!!」

〔ひっ……あ、あの……お昼ご飯、何がいいかなって……〕


 かけてきた相手はヤタ。

 ヒビだらけの画面を検めれば、そろそろ正午。


「知るか! ピザでもハンバーガーでも好きに配達させろ!」

〔……え……いい、の? 一昨日、食べたばっかりなのに……?〕


 不摂生な性分のヤタは、それを良く思わないユカリコの管理下で食生活を送っている。

 特にジャンクフード全般は厳しく制限されており、滅多に食べさせて貰えないのだ。


「構わん! コーラとメロンソーダのチャンポンも許す!」

〔わあっ……え、えへへ……じゃあ、ユカリコちゃんの分も、注文しておくねっ……〕


 弾んだ声音で切られる通話。

 一方のユカリコも、第三者という緩衝材が入ったことで少しだけ落ち着きを取り戻す。


「……アイツ……胡蝶ジンヤ、だったか」


 冷静になり始めた思考へと差し込む、ひとつの疑問。


「あの男……何故、使?」


 魔剣技アーツとは読んで字の如く、魔剣を媒介とする技。

 じぶんに剣を収めたまま発動させられた例など、少なくともユカリコは聞いたことが無い。


「それに、身体強化エクストラの一点集中だと?」


 双方共に全くの未知。

 憤怒ラースでありながら探査能力を持つ特異性といい、明らかに尋常とは異なる魔剣士。


「……奴の抱える独自の技術を吸収すれば、私は」


 僅か三週間で魔剣を第二段階へと押し上げ、あれだけの強さを得るに至った方法。

 ユカリコが特に知りたいのは、そこだった。


「運が向いてきたかもな」


 脳裏に浮かぶ、強度序列で自分よりも上位に立つ五人の顔ぶれ。

 その全てを蹴落とせるかも知れないと、ほくそ笑む。


「ふ、くくっ…………と言うか誰が六位止まりだ! 半年前まで五位だったんだぞ!」


 かと思いきや、怒りが再燃したらしく、またも暴れ始める。

 なんとも忙しい限りであった。

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