第48話 対・白鬼


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 …………。


 以上、回想終わり。


 改めてひとつずつ振り返ると、なんて慌ただしい日だ。

 離れ牢でのあれこれも含めれば、既に三日くらい動き通してるような錯覚すら覚える。

 勘弁願いたい。まだ正午も回ってないってのに。


 ……でもまあ、教室で飛斬スパーダを撃つ寸前に覚悟した展開よりは、遥かにマシな着地点。

 一番の懸念だった虚の剣に関するところも、どうにか有耶無耶で片付きそうだし。


 やはり後ろ暗い真似はダメだな。こうやって後々、悩みのタネになる。

 品行方正とまでは言わずとも、ある程度はクリーンに生きた方が精神衛生に良い。


 閑話休題。


「ぐっ……!」


 初手よりもが乗った刃を受け流し、連撃の繋ぎ目を狙い、脇腹に裏拳を見舞う。

 体幹のバランスを崩し、たたらを踏む真月。


 が、身体能力エクストラの基本出力は向こうが大幅に上回るため、ほぼダメージは入らない。

 魔剣士の回復力を鑑みれば、痛みも数秒足らずで薄れるだろう。


 攻撃の際、拳や膝にリソースを集中させたなら話は別だが、それは躊躇われた。


 何せ、第二段階に上がったばかりで細かい力加減が未だ掴みきれていない。

 下手に強く打ち込んで大怪我させたら、後味が悪い。






 躱し、逸らし、流し、弾き、散発的な拳打蹴撃によるカウンターを挟む。

 そんな応酬が何度か繰り返された頃合、頭の中にジャンヌの声が響いた。


手早く終わらせればいいのに〉


 ──そっちも、まだ火加減の調整がイマイチだからな。


〈じゃあまさか、あの女が疲れ果てて動けなくなるまでチャンバラの相手をする気?〉


 それこそ、まさかだ。

 こんな膠着状態、そう長く続きやしないさ。

 真月の性格的に。


「……ああ、くそッッ!!」


 蹴り飛ばして距離を引き離した真月が、立て続けだった攻め手を止め、地団駄を踏む。


 そら来た。

 分かりやす過ぎて、逆に心配になる。


「何故、一撃さえ通らない!? 擦り傷すら与えられない!?」


 魔剣との融合による精神の沈静化が追い付かないほど強い苛立ち。

 踏み付けたコンクリートの床に、大きな亀裂が奔った。


「見れば分かる! 貴様の身体強化エクストラの出力は、精々が私の六割程度だ!」


 こっちの見立てでも、大体そんな塩梅。

 観察力は、そこそこあるらしい。


「力も、速さも、私の方が完全に上回ってる! なのに!」

「言ったろ。要所要所でリソースを一点集中させて、不足分を補ってるんだよ」

「そんな技術、聞いたことも無い! なんなんだ貴様は!」


 怒声を上げつつ、背負うように振りかぶられる長刀。

 その刀身へと熱量が収歛し、形ある蒼水エネルギーへと昇華されて行く。

 飛斬スパーダか。


「……そうリソースを詰め込んだら、撃った後の反動も相当だと思うけどな」

「構わん! こいつで決めれば、それで済むことだ!」

「まあ確かに」


 総量こそ大きいけれど、その割には妙に密度が薄い。

 なるほど。斬撃をさせて放つ気か。


「────ザアァァァァイッッ!!」


 振るわれた一刀と共に、鉄砲水の如く撃ち出される蒼い刃。

 予想通り、範囲重視の面攻撃。


 ここは閉所。回避は無理。

 当たり判定が広いため、一点集中での防御も難しい。


 まともに受けて立てば、競り負けるのは出力で劣る俺の方。

 とことん力押しだが、ちょっとは考えたな。


 ──とは言え。


「そいつは悪手」


 指を鳴らす。


 燃え上がった銀色の炎が、蒼い激流を呑み込み──瞬く間に、焼き尽くした。


〈ごちそーさま〉


 ──お粗末さん。

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