第47話 魔剣士との対峙


「世間では一緒くたに纏められているが、協会内において魔剣士は三種類に区分される」


 エレベーターで一階まで降りる。

 横の鉄扉に備え付けられた錠前を開け、その先に続いていた階段で、更に下へ。


「自身が宿す悪魔の名前すら知らない、呼べるだけのチカラを持たない『魔剣使い』」


 倉庫を思わせる、大きく分厚い引き戸。

 鍵は掛かっていないが、身体強化エクストラ込みの腕力でなければビクともしないだろう重量。


「チカラが伴わんまま無理に悪魔の名を口にし、精神こころを抉られた『魔剣憑き』」


 引き戸を片手で無造作に開け、中に踏み入る真月。

 次いで、入り口近くのレバーを引き、照明を点けた。


「悪魔を御し、本来のつるぎのカタチを引き出せた者だけが、真に『魔剣士』と称される」


 鉄骨と鉄板をコンクリートで塗り固めた、二十メートル四方ほどの空間。

 その中央に立った真月が、おもむろに振り返る。


「ここなら滅多な騒ぎで壊れることは無い。お互い存分に腕と技を振るえる」


 あちこちに深々と残る、無数の刀傷。

 なるほど。日頃のとして設けられた地下室ってワケか。


「……無銘レギオンを第二段階へと押し上げるには年単位の時間が要ると、さっき言ったな」


 言ってたね。


「だがしかし、それは才ある者に限られた話」


 そうなのか。


「能無しは何年かけても魔剣使いのままだ。或いは己を過信し、魔剣憑きに堕ちる」


 そうなんだ。


「全国から集められたアスリートや格闘家の中でも、魔剣士へと至れる者は五人に一人」


 そこで一旦言葉を区切り、真月は虚空に手を伸ばす。


「酔い痴れろ──酒呑童子」


 指先で迸る、蒼い水飛沫。

 それを掴み取り、魔剣を引き抜く。


「貴様はその狭き門を、およそ尋常から外れた道筋で越えたのだろうな」


 刃渡りだけでも一メートル半に届く長刀。

 確か大太刀とか野太刀とか呼ばれる代物だったか。


「力量を見せてみろ。さあ、抜け」


 …………。


「俺はで構わない。人を剣で斬り付けるとか、冗談きついって」


 こっちの発言に対し、身構えたまま表情を消す真月。

 が、微かに痙攣する目元と引き絞られた瞳孔から察するに、かなりキレてる模様。


「…………だいぶ私を舐めているようだが、先刻の不意打ち程度でいい気になるなよ」


 別段いい気になってはいない。

 ついでに言うなら、正直やる気も全く無い。


「協会には『強度序列きょうどじょれつ』というものがある。要は強さのランキングだ」


 ああ。あったな、そんなの。

 協会のホームページにも目録が載ってたような。


「私の順位は六位。千人近い魔剣持ち、二百人に及ぶ魔剣士の中で、だ」


 どうやら彼女のプライドを、いたく逆撫でしてしまったらしい。

 素手を選んだのは、対人戦ならそっちの方が練度が高いって判断も込みだったんだが。


 あと、その手の肩書きを自分の口で言うと安っぽく聞こえるから、やめた方がいい。

 典型的な噛ませ犬みたいになってるぞ。


「魔剣士の回復力なら容易く。腕の一本は覚悟しろ」


 なんとも物騒な宣言。

 そして、俺がリアクションを返す間も無く、真月は一直線に突っ込んで来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る