第46話 思いがけぬ提案と……
伸びをしながら軽々しく答えた直後、真月の顔色が一変した。
「貴様……離れ牢そのものを探査できるのか……!?」
足を投げ出していたガラステーブルに勢い良く立ち上がり、俺を見下ろす金色の瞳。
だいぶ今更だが、なんて行儀の悪い女だ。天板にヒビ入ったぞ。
「しかし、どうやって。
──そうなのか?
〈基本はね。でも物事に例外は付き物でしょう?〉
隣に現れ、ひらひらと手を振るジャンヌ。
まあ確かに、そういうこと言い始めたら、お前に至っては悪魔ですらないしな。
その時点で、だいぶイレギュラー。
「一体どこの、どんな性質を備えた悪魔──いや、いやいや、待て待て待て待て」
両手で顔を覆い、しばし独り言を紡いだ後、再び真月がこちらを見る。
忙しい奴だな。
「そもそもの前提がおかしい。貴様、虚の剣を抜いたのは三週間前だと言ったな?」
言ったけど。
「三週間で魔剣を第二形態に引き上げただと?」
引き上げたけど。
「そんなこと出来る筈がない。普通なら一年か二年だ。私ですら半年かかったんだぞ」
──そうなのか?
〈基本はね。でも物事に例外は付き物でしょう?〉
鎧の隙間に引っ掛かった髪を
まあ俺の場合、離れ牢の
つーか、その説明で全部片付ける気かよ。
テキトーが過ぎる。
「………………………………ああ。もういい」
長考と沈黙。
その末に、ひとつ大きく息を吐き、呟く真月。
「質問するほど聞きたいことが増える。疲れた。と言うか飽きた」
取り調べに飽きるな。よしんば飽きたからって切り上げるな。
職務怠慢とかで片付くレベルの話じゃないぞ。
「……最後に確認するが、貴様は魔剣士協会に自分の存在を露見させたくないんだな?」
「取り敢えず、あと半年は隠し通すつもりだった。結果は、このザマだが」
そう返すと、鷹揚に頷かれた。
「いいだろう。今回の件、貴様の返答次第では上手く取り繕ってやっても構わない」
〔え……ユカリコちゃん……!?〕
スピーカー越しに響く、八田谷田の驚いた声。
当然だろう。自分の組織に対して虚偽の報告を行う、と言ってのけたのだから。
「ヤタがな」
〔しかも私ぃ……!?〕
そりゃバレない不正行為ってのは頭の切れる人間の専売特許みたいなもんだし。
少なくとも真月には無理だと思う。ここまで見てきた言動から察するに。
「虚の剣を協会に納めれば一千万円の報奨金が入る。それも貴様に全額くれてやる」
店長代理が捌いたやつより、だいぶ安い。
ホントあの人、どこに売り付けたんだ。
「その代わり、私たちに個人的な協力をしろ。もちろん、そっちの謝礼も別口で出す」
〔ちょ、ちょっと待ってユカリコちゃん……流石にマズいよぉ……!!〕
どんどん話を進めようとする真月を止めに入る八田谷田。
何かをひっくり返す音が、スピーカーと壁の向こうから一拍ズレて聞こえてきた。
「……ここ最近、奇妙なことばかりだ。特に離れ牢の発生件数は異常に多い」
テーブルを降り、ヒビ割れた天板に手をつき、同じく割れた画面を覗き込む真月。
「コイツは使える。本部に持って行かれるのは惜しい。私たちで囲うべきだ」
〔それは……そう、だけど……ウルハちゃんには、なんて伝えるつもり?〕
「考えておけ」
〔やっぱり私ぃ……〕
しおれて行く語尾。
やがて蚊の鳴くような声で、分かった、と返す八田谷田。
テーブルに乗った際、肩から落ちたコートを再び羽織り、真月が俺へと向き直る。
「さあ、どうする?」
なんともはや、随分な急展開。
だがしかし、こっちとしても願ったり叶ったりな提案。
やっぱ俺って悪運強い男だわ。
「オーケー。高校とバイトの合間で良ければ、なんなりと手伝わせて貰うぜ」
「そうか。では早速だが、ひとつ頼みを聞いてくれ」
焼きそばパン買ってこいとかならお断りだぞ。
パシリになる気は無い。
「──私と戦え。さっきの借りを百倍で返してやる」
喚び出した魔剣の切っ尖を、凶暴な笑みと共に突き付けられた。
どうやら先程のこと、しっかり根に持っていたらしい。
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