四章 魔剣衝突
第40話 熱冷の殺陣
スウェーバックと併せて、半歩だけ退く。
振り下ろされる一刀を、間合いの数ミリ外で、ギリギリ躱した。
「っ……」
長刀を隔てた先にて見開かれる、真月の両目。
だが流石は魔剣士と言うべきか、驚愕も動揺も一瞬で抑え込み、次手を打つ。
「ザァッ!!」
勢い余った刃先が地面を抉る寸前で、鋭く切り返された。
同じ軌跡をなぞる上下二連斬。燕返しか。
本来こんな馬鹿長い刀で出来る技ではないが、そこは
しかも、すり足で距離を詰めつつの追撃。初太刀より間合いを見切り辛い。
躱せなくはないが、無理に避けようとして斬られるリスクを背負うのも馬鹿らしい。
なので今度は、掌で切っ尖を弾いた。
「な……!?」
まさか素手で防がれるとは夢にも思わなかったのか、真月の動きが強張る。
ほんの四半秒程度の硬直だったが、そこを見逃すほど呑気じゃない。
剣戟を弾いた際の反動を利用し、後ろ回し蹴りを放つ。
ほどほどの強さで、踵を鳩尾に突き刺した。
「ぐっ……!!」
常人なら良くて骨折、悪くすれば内臓破裂を起こすだろう、文字通り致命的な一撃。
それを数歩の後退、何度か咳き込む程度の痛痒で済ませ、構えを取り直す真月。
「けほ、けほっ……貴様、何をした!?」
「接触の瞬間だけ
魔剣が第二段階へと移行したことで、出力そのものが大きく増している。
腕力任せの強引な不意打ちを弾くくらい、わけはなかった。
「妙な
「かもな」
やらないけど。そんな真似しでかしたら、相手が魔剣士であっても殺しかねない。
第一、女の腹を本気で蹴るって時点で、普通に気が引ける。
「真面目にやれ! 魔剣すら抜かず立ち合うばかりか、のらりくらりと……!」
そう仰られても、こちとら全く気乗りしないのだから仕方ない。
魔剣の影響で敵意を掻き立てられる天使は別として、基本的に事なかれ主義だし。
そんな胸中を表すべく、肩をすくめてみる。
すると真月は何が気に食わなかったのか、一層と眉間にシワを寄せ、睨み付けてきた。
「……いいだろう。貴様がそのつもりなら、私も相応の態度で臨ませて貰う」
毒気を抜くどころか、一層と強まる覇気。
体表を覆う蒼いモヤ──
〈血の気の多い女ね〉
頭蓋の内側に、呆れたような
そう言うお前も、史実に伝わる人物像は相当に血気盛んな方だったと聞いてるけどな。
…………。
「はぁ……なんだって、こんなことに……」
ポケットに両手を突っ込み、ひとつ溜息。
直後、猛獣の如く飛び掛かってきた真月。
その攻めを捌きながら、俺は思考の一片を割いて思い返す。
ここ数時間で起こった、ひどく目まぐるしい、一連の出来事を。
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