第38話 救出ミッション達成
指を鳴らし、大広間を埋め尽くしていた銀炎を払う。
併せ、蒼火で魔剣を覆い、そのまま手元から消す。
程なく、周囲の空間が歪み始める。
…………。
──ちゃんと、出られるんだよな?
ふと頭の隅を掠める、そんな疑念。
この離れ牢は、明らかに不可解な点が多過ぎた。
やたらと広い構造。徘徊する天使の
果ては魔剣士を呑み込むという、俺の知る限りではあり得ないと断言されていた現象。
何かがおかしい。
今まで乗り越えた三度のそれとは何かが決定的に違う。
であれば、カタがついたと安心しきるのは、少しばかり早計か。
緩みかけた緊張を、再び張り詰めさせる。
体勢を低く落とし、魔剣を抜く間際の状態で身構える。
空間の歪みによって三半規管が揺さぶられる気持ち悪さを堪えつつ、五感を研ぐ。
呼吸と心拍でリズムを取り、時を数える。
十秒、三十秒、一分と過ぎて行く時間。
頬を伝う冷や汗。妙に乾く舌先。
ひどく神経を削る警戒に区切りがついたのは、およそ数分後のこと。
一瞬の浮遊感を経て鎮まる、船揺れに似た感覚。
次いで俺は──俺たち七人は、歪んだ空間の中から投げ出された。
元の世界へと舞い戻り、最初に見た景色は、荒れた無人の教室。
半分以上が蹴倒された机や椅子、床を転がる靴跡のついたカバン。
一斉避難でも行われたのか、室内はもちろん、廊下からも
深く抉れた黒板の上に掛けられた時計が示す時刻は、始業から三十分が回った頃合い。
つまり離れ牢に囚われていた時間も、おおむね三十分ほどということになる。
そこまで確認した後、俺は構えを解き、深く静かに息を吐いた。
「か……帰って、来られた……?」
背中越しに呆然と誰かが、奇しくも俺の胸中と同じ言葉を呟く。
それを皮切りとし、安堵や歓喜の声が続々と上がり始める。
そんな一方で、弾かれたように脇を駆け抜けた人影。
「どこだ……薬……!」
横たわらせた女生徒のカバンを開け、一心不乱に中身を漁る伊澄。
ここだけ切り抜くと、なんかヤバい奴みたいだな。
などと、下らん冗談を言ってる場合ではない。
俺の方でも、足早に教室内を探し回る。
そして。ひっくり返った椅子の近くに落ちていたそれを見付け、拾い上げた。
「あったぞ」
喘息用の携帯吸入器。
投げ渡すと、伊澄は大急ぎで女生徒の口元にあてがった。
「頼む効いてくれ、頼む頼む……!!」
既に半ば止まりかけていた呼吸。
薬だけでは不足と判断し、周りの奴等に適切な処置をスマホで調べさせ実践する伊澄。
その腐心の甲斐あってか、僅かずつだが息を吹き返す女生徒。
青ざめた顔色にも、徐々に血の気が戻り始める。
…………。
かなり際どいところだったが、なんとか全員生還させられたか。
ひとまずこれにて一件落着。
差し当たり、今夜もぐっすり眠れそう──
「──これは一体、どういうことだ?」
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