第36話 その魔剣の名は──
十三の広間を越え、四十の天使を焼き尽くした。
ああいや、だから燃やしては──まあいいか、なんでも。
「……次が終点か」
肌身にビリビリと伝わる、今までに無いほど強烈な威圧感。
両手をポケットに突っ込んだまま、最後となるだろう通路を抜ける。
その先で俺が最初に見たものは、金色に輝く
そして。それを護るように立ち塞がる、二体の天使。
〈Naaaa〉
〈Naaaaaa〉
手には盾と槍を携え、背には翼を有した、一見すると煌びやかな鎧。
けれども細部の意匠はどこか禍々しく、本能的な嫌悪感を誘う。
何より、全身を覆う常夜外套の濃さ。
人類への敵意を圧し固めて可視化させたような、黒い揺らめき。
まともな神経なら、とても好感など抱けまい。
「やっぱり
視線だけ巡らせ、全く同じ造形の二体を交互に見比べた。
資料に添えられた写真の中から、該当するものを思い出す。
──『
九つの階級で第六位に位置する中位天使。
なるほど。第七位以下の下位天使とは格が違うと、対峙した時点で分かる。
そんなバケモノ相手に、いきなり二対一。
しかも協会の資料によれば、
……とは言え、これくらいのシチュエーションなら、ひとまず想定の範囲内。
もっとも、そいつらが出張ってきたところで──今なら微塵も負ける気などしないが。
「奪え」
指を鳴らし、二体の
瞬く間、三メートル近い全身へと燃え広がる
そうして絶対の護りを欠いた天使本体にも銀炎は牙を剥き、全てを奪い尽くす。
ここへ辿り着くまでは、それでカタがついていた。
最早、第七位以下とは戦いにもならないほど、俺の魔剣はチカラを取り戻した。
が、しかし。
「流石に下位天使とはモノが違うか」
常夜外套との押し合いに力負けし、散り散りに払い飛ばされる
「どーすっかな」
本音を言えば、今後のためにも色々試しておきたいところ。
けれど、生憎と時間が無い。
…………。
急激過ぎるチカラの増大は、当然ながら
正直、まだ感覚が追い付いていない。
加えて、剣の形状まで変わった。
この不慣れな状態で接近戦に持ち込まれれば、少しだけ厄介。
敗けはしないと思うが、下手に時間を費やせば、あの女生徒は手遅れになる。
「チッ」
返す返すも今の俺は、著しく跳ね上がった自分自身のチカラに感覚が追い付いてない。
例えるなら、原付しか乗ったことのない人間が急に大型バイクへと跨ったような状態。
ゆえに、出来れば全力は使わず済ませたかったが……仕方ない。
──フルスロットルで、即終わらせる。
虚空に迸る、蒼い炎。
七系統の『
そいつを掴み、俺の新たな──否、本来の魔剣を引き抜く。
炎の揺らめきのように波打つ剣身を持った
名前と姿を取り戻した、第二段階の魔剣。
同じものは二つと存在しない、唯一無二の剣。
「神を呪え」
本人から聞き知った、その
もう前のように、舌も喉も痺れなかった。
「『ジャンヌ・ダルク』」
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