第35話 聖なる邪石
『聖石……ですか?』
鑑定結果が出たと、バイト終わりに黒い石を返された日のことを思い出す。
『おう。そのツラを見るに知らねーみたいだな。ま、そりゃそうか』
ソファに寝そべり、気だるそうに欠伸する店長代理。
アホほどレア物だぜ、と前置いてから、彼女は説明を始めた。
『そいつは聖人っつう、天使とは別種のバケモノがくたばる時、稀に遺す宝石だ』
『聖人……』
一般にはあまり知られていないが、天獄の怪物は二種類に大別されている。
ちなみに俺も、この時まで聖人という呼称すら知らなかった。
──
──
現状で明らかとなっている細かな差異についても後々調べたが、ひとまず割愛。
個体数が非常に少なく、平均的に高い戦闘能力を持つのが聖人と覚えておけばいい。
『大体どれも肉と骨をごた混ぜにしたような奴らしいぜ。想像するだけで気持ちわりー』
『……アレか』
最初の離れ牢で、最後に遭遇した異形。
あの時は
資料によれば、聖人は最低でも第六位相当のチカラを持つとか。
現れたばかりで調子を出せないうちに畳み掛けた当時の判断は、まさしく英断だった。
我ながら本当に悪運強い。
『聖石って、天使が遺す天石とは違うんですか?』
指先サイズの欠片にさえ膨大な電力が詰まった、まさしく文字通りの意味で魔法の石。
今や関東圏の消費全てを賄っており、脱炭素社会の象徴として注目されている代物。
『だいぶ違うな。天石は電気エネルギーの塊だが、聖石は生体エネルギーの塊だ』
そう言われてもピンと来なかった俺に、店長代理は噛み砕いて説明してくれた。
要は、倒れた天使の亡骸が変化する光の粒と同じようなものだとか。
ただし、密度は比較にならないほど高いらしい。
『そいつを使えば、普通に天使を倒すよりも遥かに大きなチカラがお前に注ぎ込まれる』
とどのつまり、魔剣士専用のパワーアップアイテム。
『もちろんリスクもある。チカラを取り込み損ねれば、内側から焼かれるぞ』
使うかどうかは良く考えてから決めろ。
売るならアタシが渡りをつけてやる。
そう告げた店長代理の目は、どこか剣呑な色で聖石を睨んでいた。
たぶんあの人は、俺に使って欲しくないと思っていたんだろう。
見た目や言動の割、けっこう優しいからな。
『ちなみに、そのサイズなら五千万は下らねー』
だいぶ心揺さぶられたけど、ひとまず手元に残しておくことにした。
換金したところで、どうせ姉貴は受け取ってくれないし。
無造作な足取りで踏み入った広間。
その中には、四体の
〈aaaa〉
俺の姿を見とめるや否や、反射的に心臓めがけて撃ってきた。
──だが、当たらない。
──否、届かない。
風を裂いて迫る飛矢は、俺を貫く前に消え失せた。
混じり気の無い銀色の炎で、コンマ数秒とかからず消滅したのだ。
「もっと弱火で良かったな」
今、俺の手に魔剣は握られていない。
代わりにひとつ、甲高く指を鳴らす。
「『
火種も無く、一斉に燃え上がる天使たち。
倒れる間も無く、一片の灰すら残さず燃え尽きる。
…………。
いや。正しくは少し違う。
少しと言うか、全く違う。
何故なら俺の放った銀炎──
「……まだ火が強いか」
要練習。
だが幸いかな。
練習台なら、この先にいくらでも居る。
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