第30話 三十秒間の綱渡り


 三方向から微妙な時間差で飛来する光弾。

 深く体勢を沈めてから勢い付けて跳躍し、更に壁や天井を蹴って跳ね、回避する。


 離れ牢の広間は、天井も高い。

 宙を舞える天使の存在を知って以降、三次元的な動きの型も作っておいた。


「チッ……」


 立て続けに撃ち放たれる光弾。

 弾速そのものは今の俺よりも遥かに上であるため、弾道を予測することで躱す。


 やはりと言うべきか、両翼揃った状態の方が連射間隔が短い。

 さっきの権天使プリンシパリティは初手で倒したから、確認しようがなかったんだよな。


「ッ……」


 あとひとつ通路を跨げば、呑み込まれた奴等と合流できる状況。

 逸る気持ちを冷静な思考で鎮め、呼吸と心拍をメトロノームに見立ててリズムを取る。


「たんたん、たん……たたん、たん、たん……」


 十数秒ほど完全な受け手に回り、光弾を躱しながら様子見に徹する。

 サンプルが三体も並んでいるお陰で、割とすぐは掴めた。


 ──なるほど。


「六発か」


 権天使プリンシパリティの光弾は、六発撃つごとに三秒前後のリチャージが入る。


 更に言えば、その間は著しく動きが鈍い。

 連携と時間差射撃で分かり辛くしているが、単体毎に的を絞って見定めれば明らかだ。


「なら──」


 ピンボールの如く壁を跳ねて直角に軌道を変え、最も遠かった一体の背後に取り付く。


 今ちょうどリチャージに入った個体。

 残る二体はコイツが射線を遮って、俺を狙えない。


 なまじ知性を備えていることが災いしたな。

 これが下天使エンジェルだったなら、構わず諸共に攻撃を仕掛けただろう。


 もっとも、連中の昆虫同然な頭では、ハナから連携など取れないか。


右薙ぎ三番


 権天使プリンシパリティは俺から離れようとするが、間に合うワケもない。

 切っ尖で正確に首を断ち、その勢いのまま一回転しつつ、を行う。


 柄を握る掌から熱量を送り込むイメージ。

 銀色をチラつかせた蒼炎エネルギーが、ゆらゆらと剣身に纏わり付く。


飛斬スパーダ


 盾代わりとなっている権天使プリンシパリティの胴を裂き、三日月形の刃を放つ。

 常夜外套が霧散した亡骸は、身体強化エクストラの出力が落ちた状態でも実に軽々と断てた。


 そして──し、再び剣身へと蒼銀を纏わせる。


「ぐッ……ッッ!」


 連続、それも通常の十倍疲れる銀炎を混ぜ込んだ状態での魔剣技アーツ発動。

 なんなら、二つ前の広間で同じものを使った時の疲労も、まだ少なからず残っている。


 視界が暗くなり、遠のきかける意識。

 我ながら無茶だと思うが、生憎と蒼一色の飛斬スパーダでは権天使プリンシパリティを倒す決め手にならない。


 そもそも、第七位の天使と正面切ってやり合うなど、可能なら避けたい事態だ。


 さっきの光弾の回避だって、実のところ内心冷や汗ものだった。

 傷ひとつ負わずに済んだのは、数の利を有するにつけ込んだからに過ぎない。


 だがしかし、この盤面で一体でも取りこぼせば、次は向こうも死力を尽くすだろう。

 仕切り直しをさせないために、なんとしても纏めて片付ける必要があった。


「──飛斬スパーダァッ!!」


 歯を食いしばり、指先に渾身を篭め、魔剣を振り抜く。


 切っ尖から放たれた蒼銀の炎刃は、心なしか初撃よりも勢いが弱い。

 けれど狙いそのものは寸分狂わず標的を捉え、およそ一秒の時間差を経て着弾する。


 常夜外套を刈り払い、本体との衝突によって鳴り渡る金属音。

 やけに長く感じた拮抗の末──二体の権天使プリンシパリティは、それぞれ真っ二つに両断された。

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