第29話 【緊急】救助対象まで辿り着け


唐竹割一番左切り上げ六番


 片側に二本並んだ剣腕を纏めて斬り伏せ、返す刀で斜めに胴を断つ。


 太刀筋通りの真っ直ぐな断面を晒し、崩れ落ちる四本腕のバケモノ──大天使アークエンジェル


 その光景を視界の端へと捉えつつ、動きを止めることなく次なる標的への攻めに移る。

 連撃に際したも、随分と滑らかになった。


左薙ぎ七番飛斬スパーダ


 魔剣を振り抜いた勢いに乗って身体の向きを変え、薙ぎ払いと共に蒼炎エネルギーを撃ち放つ。

 切っ尖の延長線上に立つ三体の下天使エンジェルを、纏めて斬り裂いた。


「────」


 併せ、深く踏み込み、疾走。


 魔剣技アーツ発動直後で低下した身体強化エクストラの出力。

 下がった分を補うべくリソースを下肢と頭部に集中させ、脚力と動体視力を保たせる。


 ──急げ。


 七人分の気配が固まった場所まで、まだ遠い。

 反響定位エコーロケーションでのマッピングによれば、あと五つの広間を越える必要がある。


「チィッ……なんで俺だけ離れた位置に飛ばされたんだ……!!」


 そう毒づくも、理由は明白。魔剣士だからだろう。

 延いては離れ牢が発生する際、最大出力で発動させていた身体強化エクストラの影響か。


 恐らく、呑み込まれる際にエネルギー同士が反発し、中途半端に弾かれたのだ。

 やらかした。むしろ出力を抑えるべきだったか。


 とは言え、あの場あの瞬間に正しい選択肢を知る術など無かった。

 要するに単なる事後孔明。そも悔いたところで今更どうにもならない。


「急げ……!」


 せめてもの幸いは、感じる気配が今のところ固まったまま動いていないってことか。

 パニックを起こしてバラバラに逃げ回られたら、流石にお手上げだった。


 が、この好機もいつまで続いてくれるかは分からない。

 事態は一秒を争う。俺は更に足を急がせた。






 二体の大天使アークエンジェルを屠り、広間を抜ける。


 六体の下天使エンジェルを蹴散らし、広間を抜ける。


 何も居ない、がら空きの広間を抜ける。


 そして。


飛斬スパーダァッ!」


 銀が混じった蒼炎エネルギーを、ごっそりと体力が奪われる感覚と共に放つ。

 三日月形の刃が向かう先は、透き通った翼で宙を舞う、四肢持たぬ人形──権天使プリンシパリティ


〈Maaaa〉


 蒼銀の飛斬スパーダは、明滅する両翼から射出された光弾を、それを撃った天使ごと両断。

 貧血の症状に近い立ちくらみを堪えつつ、俺は再び広間を駆け抜けた。


 途中、光の粒と化した権天使プリンシパリティを魔剣が吸い込み、回復する体力。

 しかし銀炎の使用による消耗の方が大きく、少なからず残る疲労感。


「はっ……はっ……」


 息を切らせ、緩みかけた脚に喝を入れ、走る。


 ここを越えれば、次が目的地。

 ひとまずの折り返しが見え始めたことで、僅かながら安堵を覚える。


 …………。

 が。最後の通過点となる広間に出た瞬間、そんなものは儚く吹き飛ばされた。


 何故なら。






〈Ma〉

〈Maa──〉

〈Maaaaaaaa〉


 ガン首揃えた権天使プリンシパリティが、俺を待ち構えていたからだ。

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