第27話 三度あることは
店長代理に朝食を作ってから、バイクを借りて登校する。
あの人、放っておくとロクなもの食べないんだよな。俺を雇う前はどうしてたんだか。
「──そう! そこで俺はバシッと決めてやったのさ!」
始業五分前。教室に入ると、いつも通り伊澄が武勇伝を語っていた。
その周りに人だかりができてる中、俺は自分の席へと座り、窓の外を眺める。
ウチの高校は高台に建っていて視界を遮るものが無いため、ちょうど見えるのだ。
空の青色に半ば溶けた、宇宙まで伸びる白亜の巨塔──天獄が。
「ホント、デカいよな……」
十年前、アレが富士山を突き破って現れたことで、世界の常識はひっくり返った。
以降、諸外国と様々な衝突を起こしつつも、日本は天獄と魔剣の独占に成功している。
海外への忖度まみれな政治家連中も、やる時はやるもんだ。
ところで天獄と言えば、やはり最近のトレンドは軌道エレベーターだろう。
ここ数年で最も注目されているプロジェクト。
政府の発表だと一号機が完成間近で、年度内には竣工検査が入るとか。
早ければ来年には、一般人にも手の届く費用で宇宙まで行けるようになるらしい。
まさか地震大国の島国が、世界に先駆けて軌道エレベーターを持つ日が来るとは。
世の中、何が起こるか分からないものだ。
「……いっぺん姉貴を宇宙まで連れてってやりたいな……」
両親が交通事故で亡くなって以降、姉貴には苦労をかけっ放しだった。
中卒で働くと言っても全く聞き入れず、俺のバイト代も小遣いに使えとの一点張り。
一本目の虚の剣を売った金も、結局受け取ってくれなかった。
そもそも姉貴にラクさせたくて得た金だったってのに。
だからせめて、宇宙旅行くらいのプレゼントを贈ってもバチは当たらないだろう。
そんなことを思いながら、一般予約開始予定日を調べておこうとスマホを取り出す。
──首筋に焦げ付くような感覚が突き刺さったのは、その瞬間だった。
「ッッ……ッ!?」
椅子を蹴倒し、立ち上がる。
教室中に音が響き渡り、こっちに集まるクラスメイトたちの注目。
だがしかし、そんなことにかかずらっている場合じゃなかった。
ここに留まっていてはマズいと、俺の全神経が警鐘を鳴らしていた。
「全員、今すぐ教室を出ろ!!」
そう叫んだ直後、自らの選択ミスを悟る。
あらかじめ告知が出されている避難訓練じゃないんだ。
急に大声を上げたところで混乱を招くだけ。
人間は、自分で思うほど咄嗟には動けない。
──こうなったら。
「シィッ!」
目の前の机を蹴り上げ、天井に叩き付ける。
併せて。手元に魔剣を喚び出した。
「え……魔け……!?」
俺以外の全員が固まった中、剣身に少量だけ
三日月形の刃は誰も立っていない教壇を斬り裂き、その先の黒板を深々と抉った。
ちょっと加減が足りなかったか。まあいい。
「さっさと
再度の怒号。
目に見える形で危機意識を煽ったことが功を奏し、声にならない叫びと共に蜘蛛の子を散らす勢いで逃げ去る面々。
けれど──ほんの一手、間に合わなかったらしい。
「くっ……!!」
教室内の空間が激しく歪み始める。
扉付近で押し合いになって、まだ全員が出られていないと言うのに。
どうする、と思考を巡らせるも、生憎と妙案は浮かんでくれない。
せめてもの抵抗に、
そうして俺は──俺たちは、呑み込まれた。
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