第25話 閑・未だ交わらず
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「──未登録の魔剣士、だと?」
胡蝶ジンヤが離れ牢から二度目の生還を果たした数日後。
魔剣士協会第五支部の一室で、ユカリコが電話越しに怪訝な声を上げる。
〔ええ。ひと通り調べてみたけど、それしか考えられなくて……〕
被災者搬送先の病院から通報を受け、調査の末に発覚した天獄災害──離れ牢の発生。
一般家宅内という早期発見が困難な座標であったにも関わらず、犠牲者はゼロ。
加えて誰が被災者の救助を行ったのか、その手がかりさえ掴めていない状態。
唯一の目撃者も僅か二歳半の男児で、証言の大半は要領を得ないもの。
まるで自らの存在を隠そうとしているかのような、その割には被災者救助に尽力を尽くした形跡が窺える、実に奇妙な案件。
「
〔もちろん。でもウルハちゃんどころか、該当者自体が一人も居なかったの〕
協会所属の魔剣士は、例外無く後頭部にタグが埋め込まれている。
本部のシステムで照会を行えば、いつどこに居たか詳細に判明する仕組み。
当然、有事以外にアクセス許可はおりないが。
「だから協会外部の人間によるものだと言う気か?」
数秒の沈黙。
恐らく電話口の向こうで頷いたのだろう、とユカリコは判断する。
「しかしな、虚の剣も魔剣も全て協会の管理下なんだぞ。未登録の人間など居るのか?」
〔……それなんだけど。この間のこと、覚えてる?〕
探査網に引っ掛かった筈の離れ牢を発見できず、挙句二度目の探査を行った際には反応自体が跡形も無く消失していた一件。
結局、探査結果の誤りということで片付いた話だが……。
〔やっぱりあの時、被災者が自力で脱出したのよ〕
「ひとまず反論は置いておくとして……そいつが今回の件に関わってる、と?」
また数秒の沈黙。
電話なんだから言葉にしろコミュ障め、と内心で毒づくユカリコ。
「無理のある推理だな。現場には七級の
死に際の天使が低確率で遺す、天獄が人類にもたらす財宝のひとつ。
小指の爪ほどもあれば優に百世帯以上の消費電力を数ヶ月に亘って賄える代物。
新時代のクリーンエネルギーという触れ込みで、世界中の関心を集めている。
「仮にお前の推論が正しかったとしよう。だがその場合、虚の剣を取り込んで一週間そこらの魔剣使いが、どうやって
宿る悪魔の
歳に似合わず戦闘経験の豊富なユカリコは、身をもって心得ていた。
〔でも、ここまで探して影すら踏めないのは、明らかに何かおかしいわ〕
「その点についてだけは同意する」
すぐ尻尾を掴めるとタカを括っていれば、この始末。
──よりによって私たちの管轄内で、面倒なことが起きてくれたものだ。
声に出さず愚痴りながら、気だるく肩を落とすユカリコ。
「どっちみち捜索は続けなければならん。虚の剣が持ち出されている以上、な」
魔剣士と天獄の存在は、今の日本にとって諸外国への絶大なアドバンテージであると同時に特級の爆弾でもある。
故に日本政府は虚の剣の輸出を禁じ、魔剣士協会による厳正な管理を敷いている。
〔私は調査に戻るわ。何か分かったら、また連絡する〕
「なるはやで頼んだぞ。暇を持て余せるのが協会支部のステキなところなんだからな」
通話を切り、ソファに座り込むユカリコ。
次いで、長い白髪を面倒くさそうにガシガシと搔き、盛大に溜息を吐き出した。
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