第22話 魔剣技の弱点


〈Maaaa──!!〉


 耳障りな高音を更に一オクターブ上げて叫ぶ羽付き。

 残る左翼をバタつかせるも、死にかけたセミの如く地を這いずるばかり。


 倒すには至らなかったが、もう飛べまい。

 手も足も出ないとは、まさしくあのようなザマを指す言葉だ。


 まずは一体、無力化。

 が、初手で上々の首尾を得られたからと言って、悠長に喜んでいる暇は無い。


「ふうぅぅるるるる」


 再び腰だめに魔剣を構える。


 併せて蒼炎エネルギーを剣身へと収斂させ、ようやく動き始めた四本腕の片割れに向け、放った。


右切り上げ四番


 斜めの太刀筋、その延長線上を飛来する三日月形……否、二日月ほどの細刃。

 サイズ自体も、例えば先程三体の下天使エンジェルを纏めて仕留めた時より小さい。


 ──けれども、内に篭めた蒼炎エネルギーは、大体同じだ。


 圧し固めることで密度を高めた飛斬スパーダ

 剣腕で防御されるも全身丸ごと弾き飛ばし、猛烈な勢いで壁へと叩き付ける。


 魔剣による干渉を受け、常夜外套が揺らいだ状態での衝突。

 護りを欠いた四本腕は、強度の弱い関節部が衝撃に耐えかね、バラバラに砕け散った。


「……頑丈だな。じゃガードの上からは斬り裂けないか」


 飛斬スパーダ射出後特有の脱力感。

 深く息を吸いながら、未だ健在な二体目の四本腕へと向き直る。


後退ルート五


 八方向への移動のうち、最も型を作るのに難儀した後退。

 バックステップで距離を置いた四半秒後、四方から襲い来る四本の剣腕が空を切る。


「悪いが中なもんでね。五秒待ってくれ」


 最初は気付かなかったのだが、身体強化エクストラ発動中、俺の体表は蒼いモヤで覆われている。


 常夜外套と酷似したエネルギーの力場。

 そして飛斬スパーダとは、そいつを剣身へと集約させ、撃ち放つ技だ。


 早い話、飛斬スパーダの装填開始から撃ち終わって以降の数秒間は、身体強化エクストラの出力が落ちる。

 蛇口を二つ同時に開けば水圧が弱まる、みたいなイメージで俺は解釈してる。


 恐らく飛斬スパーダに留まらず、全ての魔剣技アーツに共通する仕組みなのだろう。

 考え無しに大技を使えば土台が脆くなり、致命的な隙を晒す羽目になるってことだな。


「ふうぅぅ……」


 細かく間合いを保ち続け、身体強化エクストラの回復を待つ。

 命懸けの状況下で五秒ってのは、かなり長い。


「──よし」


 再び膂力が充ちる感覚。

 深く踏み込み、一気に四本腕との距離を縮める。


前移動ルート一右薙ぎ三番


 真っ直ぐ突っ込みながらの、柄を逆手に握った横薙ぎ。

 体感的に、今の俺が繰り出せる中で最も鋭い一撃。


 トップスピードでの交錯。

 四本腕の脇を駆け、すれ違いざまに斬り付ける。


 硬い手応え。しっかり刃筋を立てなければ容易く弾き返される強度。


 だが──俺の魔剣は、天使の胴を、するりと抜けた。


「冷や汗もんだな」


 背後で亡骸が倒れる音を聴きながら、掌で頬を擦る。

 血の痕。切っ尖が掠めていたか。まだまだ危なっかしい。


 ともあれ、ひと心地。

 あとは羽付きにトドメを刺し、前回のような茶々が入る前に核石コアを破壊──


「────」


 に気付けたのは、視界の端で光がチラついたからか。

 或いは強化された五感が、本能的に危機を察したのか。


 反射的に身構える。

 頭を庇った左腕に、痛みか熱さかも分からない衝撃が伝い、吹っ飛ばされた。


「かッ……!?」


 転倒はマズい。

 そんな思考と合わせて空中で身を翻し、どうにか二本の足で着地する。


 次いで目にしたものは、うつ伏せに横たわった羽付きが、大きく片翼を広げた姿。


 そして、その翼面が異常な輝きを帯び、俺めがけて眩いを撃ち放つ光景だった。

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