第21話 二度目の鉄火場
鼻歌混じりに通路を渡りきり、体育館ほどもある広間へと抜ける。
だだっ広い空間の中心に浮かぶ、金色の輝きを帯びた歪な菱形の岩。
離れ牢を形作る基点にして動力源、
アレと魔剣のどちらかが欠ければ、この場所は存在を保てず、消失する。
もっとも、魔剣を壊す方法など知らんけど。
道具、薬剤、高温、低温、放射能。果ては魔剣同士の衝突や天使との戦闘ですら刃こぼれどころか引っ掻き傷ひとつ残らない、不壊不朽の剣なのだから。
……まあ、そんな瑣末事は置いといて、だ。
「あーあ。嫌な予感ばっかり当たるもんだ」
だがしかし──そのいずれもが、俺の知るバケモノとは姿が異なっていた。
〈Laaaa〉
〈La〉
まず、
基本的なフォルムこそ
パーツの造形も一段と刺々しいし、何より腕が四本ある。
最たる差異は、全身に纏う常夜外套の濃さ。
見ただけで分かった。明らかに
加えて厄介なことに、既に俺を捉えているにも関わらず、襲いかかって来ない。
ガラス細工を思わせる無機質な眼球から向けられる、機を窺うような視線。
単調な行動パターンを昆虫同然になぞるだけの
その所作には、確かな知性が感じられた。
……そして、もう一体。
俺と
〈Maaaaaaaa〉
四肢をもぎ取った、胴体だけのヒトガタ。それでいて身長は俺より高い。
背面には透き通った翼を備え、そいつを羽ばたかせることで宙を舞っている。
常夜外套の濃さは、左右を固める四本腕以上。
つまり奴こそが、この中で最も格の高い天使。
──四本腕が
九つの階級における第八位と第七位。
肌身を刺すチカラの多寡から推し量るに、そこら辺に位置付けるのが妥当だろう。
が、そうなると今度は別の疑問が浮上する。
──こいつらが八位と七位なら、前に俺が倒したのは一体なんだったんだ?
肉と骨をデタラメに接ぎ合わせた異形。
陶器とも金属ともつかない無機質で構成された天使とは大きくかけ離れた意匠。
それに改めて思い返すと、あのバケモノには
天使を天使たらしめる象徴の欠損。
果たしてアレは、そもそも天使だったのだろうか。
「……どうでもいいか。取り敢えず、今は」
思考を切り替え、逆手かつ腰だめに魔剣を構える。
俺と対峙する三体の天使。
個々の強さは恐らく、あの肉人形のバケモノよりは下。
とは言え、アレとは真っ当に戦って勝ったワケじゃない。
何より、交戦経験も事前情報も無い敵との対多って時点で、こっちの不利は明白。
──魔剣士協会め。
「
様子見は不要。
相手に余計な時間を与えず、何もさせず倒すのがベスト。
初手の標的は羽付き。
不意打ちを仕掛けるなら、一番厄介そうな奴に限る。
「
跳躍の勢いを乗せた、下から上にかけての垂直な切り上げ。
なまじ考える能を持っていたことが裏目に回り、四本腕たちは出遅れた。
そのまま両断──とは行かず、咄嗟に身をよじられるが、構わず魔剣を振り抜く。
鳩尾あたりを軸にバック宙。
より速度を増した、縦方向での回転斬り。
そうして繰り出した二の太刀は、羽付きの右翼を捉える。
「くッ……!」
常夜外套の護りは厚く、素の硬さも相当なもので、食い込むと同時に鈍る剣速。
コンマ数秒の拮抗。
羽付きの両翼が強く発光し始め、あからさまに攻撃の予備動作を匂わせる。
けれど。アクションを起こされるよりも僅かに早く、俺が押し切った。
「ぅ、る、あァッ!!」
甲高い切断音。一気に軽くなる手応え。
羽付きの身体を蹴った反動で間合いを稼ぎ、着地。
直後。斬り裂かれた片翼と共に、羽付きは石床へと墜ちた。
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