第16話 七日の成果と…


 俺が期せず魔剣士となって、あっという間に一週間が過ぎた。


 もっとも、その間の出来事は、取り立てて特筆するほどのものでもなかったが。


 いつも通り学校に行き、バイトをこなす日々に、魔剣と異能の練習が加わっただけ。

 あとは細々した調べ物くらいか。兎に角、極めて穏当なルーティンの繰り返しだ。


 お陰で魔剣士協会関連の事情にも多少詳しくなったし、チカラの扱いも随分こなれた。

 元々あまり他人と深く付き合う方ではなかったから、誰かに怪しまれる様子も無い。


 虚の剣に関しても、店長代理曰く、早速買い手が見つかったらしい。

 ……合法的な取引なのかは敢えて聞いていないが、たぶん大丈夫だろう。


 来週末あたりには金が入る予定。

 しかも俺の取り分は、おおむね同額の宝くじ当選券と取り替えてくれるとのこと。

 余計な税金を払う必要が無い上、姉貴への説明も容易。素晴らしいアフターサービス。


 そんな感じで諸々含めて、まさしく絵に描いたような順調ぶり。

 今のところ、すこぶる上手く行っている。


 …………。

 そう。すこぶる上手く、行っていた。






 とっぷり日も暮れた頃合、いつも通りにバイトを上がる。


 けれど、いつもと違って真っ直ぐ帰らず、高校の屋上へと立ち寄っていた。


「ふううぅぅぅぅるるるる」


 今夜は姉貴が夜勤で家に誰も居ないため、好きなだけ練習に費やせる。

 アパートで魔剣を振り回すのは無理があるので、ここを間借りしている次第。


「──ふッ!」


 拾っておいた拳大の石を、身体強化エクストラ付きの腕力で思い切り投げる。


 そして十メートルほど先のフェンスへと衝突するより先、軌道上に回り込んだ。


「シィッ!!」


 縦に一度、横に一度、十字に剣身を振るう。

 石はきっかり四等分に寸断され、俺の足元に転がり落ちた。


「よし。だいぶ仕上がったな」


 七十キログラムにも満たない身体に宿る、ヒグマをも片手で絞め殺せよう埒外な膂力。

 少しでもバランスを崩せば自分自身が振り回される、非常にピーキーな異能。


 だがしかし、あらかじめ作った『型』通りに動く方法を考案し、これがハマった。

 ひたすら反復を重ね、所作を身体に染み込ませ、ほぼモノになったと思う。


 そろそろ、魔剣技アーツを組み合わせた型の開発に移ってもいいタイミングだろう。


「別の練習場所、探さなきゃな」


 屋上とは言え、流石に校舎内で飛斬スパーダをブッ放すワケにも行かない。

 どこか都合の良いところは無いものかと、周辺の地図を頭に浮かべながら考える。


 そんな最中──ふと、が背骨を伝った。


「ッ……?」


 振り返りざまに軽く跳躍し、俺の背丈の倍近いフェンスへと飛び乗る。

 ちりちりと背筋を炙るような感覚が示すまま視線を走らせ、ある一点で止めた。


「この感じ……まさか……」


 最初こそ曖昧だったが、やがて確信に至る。

 間違いない、と。


「離れ牢……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る