第15話 超人と常人の差異


 魔剣士は異能の発動中、瞳が金色に変化し、光を放つ。

 そのため滅多な場所ではもできず、徹底して人目を避けなければならない始末。


「あれ? 胡蝶くん、今日は教室で食べないの?」

「……たまにはな」


 時刻は昼休み。

 午前中に得たを試すべく実験場に選んだのは、校舎の屋上。


 基本的に施錠されており、生徒どころか教員も入れない閉所。

 下からは完全な死角で、高台という立地ゆえ近辺にここより背の高い建物も無い。

 それでいて十分な広さがある。まさしく打って付けだ。


「よっ、と」


 校舎裏から壁を駆け上がり、背の高いフェンスを越えて着地。

 パルクール選手もビックリの身軽さ。身体強化エクストラの出力が昨日より更に高くなっている。


 素の身体能力自体が大きく上がった影響か、はたまた魔剣が骨肉に馴染んだためか。

 どちらにせよ、こう劇的に変わられると、また慣れるまで振り回されそうだ。


 ……まあいい。

 取り敢えず、始めるとしよう。






 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


「駄目だな」


 振り回していた魔剣を手元から消し、小さく溜息を落とす。


 こっそり授業中に見漁った、様々な格闘技の動画。

 覚えた動きを俺自身に合わせる形で調整、再現してみた次第。


 昔から他人を真似るのは得意だった。

 加えて今の俺は、身体能力も動体視力も集中力も、以前とは比較にならない域にある。

 お陰で空手十段の達人やらボクシングチャンピオンやらの動きも一度見ただけでを食い取り、ほぼ完璧に模倣することが適った。


 ……の、だが。

 ハッキリ申し上げて、どれもこれも使い物にならん。


「所詮はが違うってことか」


 剣道も空手も柔道も合気道もボクシングもレスリングも、全てのワザだ。

 あらゆる攻撃も防御も、それを向ける相手が天使バケモノであることを想定した技術ではない。

 延いては、使い手の身体能力が人間離れした領域にあることを想定した技術でもない。


 とどのつまり──既存の武道や格闘技では、魔剣士のスペックを全く引き出せない。

 組み上げられた技術体系の方向性そのものが、俺の求めるところから著しくズレてる。


 結論。取り入れるだけ時間の無駄。

 むしろ変なクセがついてマイナスになりかねん。


 午前中まるまる使った結果がコレとは、授業を聞き流した甲斐が無い。

 ……まあ、無駄ってコトを早急に理解できただけでも、今回は収穫アリとしておこう。


「しかし、どうしたもんか」


 他の魔剣士が戦うところを見られれば手っ取り早いのだが、流石に無理な注文だろう。

 魔剣士協会の公式アカウントが広報用に上げてる動画もあるにはあるが、被写体のスピードにカメラの性能が追い付いておらず、技を盗むための資料とするには不向きだった。


「せめて練習台が居ればな……」


 天使を相手取れば効率良く技術を培える上、倒すことでチカラも得られる。


 もっとも、それが可能な唯一の場である天獄は、魔剣士協会の厳重な管理下。

 中に入れるのは、登録された人間だけ。


 つまるところ、どちらにせよ無いものねだりってワケだ。


「やれやれ」


 燐火と共に再び魔剣を取り出し、身体強化エクストラ込みでの素振りを始める。


 かったるいが、コツコツ手探りでやって行くしかない。

 地道な特訓あるのみ。






 …………。

 そう思っていたが──飛躍の機会は、割とすぐに訪れた。


 それが良いことか悪いことかは、兎も角として。

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