第14話 魔剣士という職業


 配達を済ませ、高校近くの駐輪場にバイクを停め、素知らぬ顔で通学。

 教室に入り、窓際の席へと腰掛け、ひとつ欠伸を噛み殺した。


「──すっげぇ! じゃあ伊澄いすみくん、卒業したら魔剣士になるの!?」


 うとうとしてたら、不意に響いたデカい声。

 視線を向けてみれば、教室の真ん中に人だかり。


 なんだ。またいつものやつか。


「取り敢えず協会からスカウトされたってだけさ。話を受けるかどうかは、まだ考え中」

「絶対なった方がいいって! 伊澄くんならあっという間にトップだよ!」


 分かりやすいおべっかを並べる、声のデカい太鼓持ち。

 その一方、おだてられて満更でもない顔をしてる男子生徒。


 伊澄クロウ。

 ウチのクラスの中心人物。大袈裟に言えば、いわゆるスクールカーストトップ層。

 事ある毎、ああやって周りに聞こえるように自慢話をするのが恒例行事なのだ。


 まあ実際、誇るに足る経歴の持ち主なんだが。

 何せインターハイ、全国選抜、玉竜旗の高校剣道三大大会で全優勝してる実力者だし。


 要は日本一剣道が強い男子高校生。

 加えて剣道を始めたのは高校に入ってからだとか。才能の鎌足かまたり、じゃなくて塊かよ。


 …………。

 しかし、魔剣士協会からスカウトを受けた、ね。

 なんともはや、俺にとっては随分タイムリーな話題だな。


 ──そう。魔剣士とは本来、伊澄のような一握りの才人だけが通れる狭き門なのだ。


 十年前の天獄出現当初、およそ千本、外周を取り囲むように存在が確認された虚の剣。

 その全てが回収された今となっては、不定期に発生する離れ牢でしか新たな入手が望めない、けれど魔剣士を生むには必要不可欠な代物。


 本数がごく限られている上、一度宿主と融合すれば死ぬまで引き剥がせない貴重品。

 与える者への選考基準が厳しくなるのは、自明の理だろう。


 選り抜きの武闘派で構成された組織ってのが、俺が魔剣士協会に抱いている印象。

 ひとまず魔剣の所持を秘匿すると決めた理由も、そこにある。


 武道や格闘技での功績など立てていない俺が、そんな集団に属せばどうなるか。

 およそ想像に難くない。どう考えてもロクな目に遭わない筈。


 そして恐らく、永久に隠し通すことも難しい。

 いずれ必ず、魔剣士協会と関わりを持つ日が来るという確信めいた予感があった。


 だからこそ、時間が必要なのだ。

 腕自慢の荒っぽい連中相手に、ある程度は我を貫けるだけの武力を得るための時間が。


「で、スカウトマンが俺の直に実力を見たいって言うから、用意された相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ──」

「スゲー!」


 グループの仲間と会話しているテイで、周りに武勇伝を聞かせ始めた伊澄。

 ああいう分かりやすく自己顕示欲が旺盛な態度は、実のところ嫌いじゃない。


「……剣道、か」


 スマホを取り出し、動画サイトを開く。

 適当にそれっぽい検索ワードを打ち込んで、始業までの間、何本か動画を回し見た。

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