第13話 ショップ機能解放


「どこで手に入れた?」


 手袋を嵌めてから注意深く剣へと触れ、ひと頻り検めた店長代理。

 やがて本物だと確信したのか、俺にそう問いかける。


「いや待て。お前さっき、こいつを素手で掴んでたな」


 にも関わらず、虚の剣と融合していない。

 それはつまり、既にが混ざっているということ。


「他言無用でお願いしますよ」


 この人に事情を隠し立てしようとは思っていない。

 むしろ逆。包み隠さず全て話し、色々と相談に乗って貰うつもりだ。

 と言うか、そうでもなければ、そもそも虚の剣を見せたりしない。


「来い」


 腕を伸ばした先の虚空で、蒼い燐火が弾ける。

 それを掴むと、鏡のように磨き上げられた刃を持つ片手剣ショートソードが、手中へと収まった。






「──なるほど、離れ牢か。そう言えば、ここら辺もギリギリ発生圏内だったな」


 大まかに事の次第を話すと、店長代理は脚を組み替えながら納得したように呟く。

 次いで髪と同じ紫色の目を細め、じっと俺を見やった。


「よく生きて帰れたもんだ。流石アタシの面接をくぐり抜けた精鋭」


 顔を見るなり採用と言われた気がするけど。

 しかもバイト希望ですらなかったのに、無理やり押し切られたし。


「……虚の剣コイツをウチに持ち込んだってことは、魔剣士協会と関わる気はねぇのか?」


 無言で頷いて返す。


 昨日帰ってから少しだけ調べたが、一度取り込んだ魔剣を分離させる方法は、今のところ宿を除いて発見されていないらしい。


 そして協会は、一人でも多くの魔剣士を欲しがってる。

 のこのこ名乗り出れば、否が応にも所属する羽目となってしまうだろう。


 実態を詳しく知らない組織になし崩しで入るとか、普通に勘弁。


「ま、当然の判断だな。あそこは腕っぷし至上主義な連中の集まりだ。な奴も多い」


 いずれ敷居を跨ぐにしろ、事前の準備は入念にやっておくべきだ、と言葉が続く。

 世渡り上手な大人の御意見、感謝の極み。


「取り敢えず高校を卒業るまでは隠し通すつもりです。姉貴にも心配かけたくないんで」


 あと半年ほど。

 その後の判断は……その時の俺に任せるとしよう。

 頑張れ来年の俺。


「妥当なセンだと思うぜ。精々ボロを出さねーように気を付けろよ」


 賛意を示した店長代理が、コツコツと指先で机を二度叩く。

 話題を切り替える時の、彼女の癖。


「仕事の話に戻るが、の件は任せな。依頼料は……売り値の二割でどうだ?」


 モノがモノだ。仕入れ先を明かさずに捌くとなると、かなり骨を折る筈。

 にも関わらず、随分控えめな請求額。


「折半くらいで考えてたんですけど」

「虚の剣は日に日に価値が高騰してて、今や高級車並みだ。二割でも十分過ぎる」


 取り引きは適正価格で、というのが店長代理のモットー。

 多少のこそ利いている筈だが、彼女がそう述べるなら、それが相場なんだろう。


「もしまた手に入ったらウチに卸しな。欲しがる奴は山ほど居る、何本でも引き取るぜ」

「それは構いませんが……」


 俺に他のツテなんか無いし。


 と言っても、そもそも次などあるとは思えないが。

 つーか、あってたまるか。





 ──そうだ。

 忘れるところだった。


「代理。ついでに、も見て欲しいんですけど」


 離れ牢からの脱出後、虚の剣の近くに落ちていた黒い石を差し出す。

 軽く経緯を添えると、店長代理は怪訝そうに受け取った。


「……こいつは……天獄関連の品となると、天石てんせきか? しかし、この色は……」


 嵌めたままの手袋越しに掌上で転がされる黒石。

 けれど詳細を見極めるには至らなかったのか、舌打ちと共に小さく首を振った。


「鑑定に回す。しばらく預かるぞ」


 書類が散乱した机の上に石を放り投げ、次いで壁掛け時計へと向かう視線。


「……もうこんな時間か。それじゃ、配達頼んだ」

「あ、はい」


 バイク通学禁止なんだけどなー。

 まあいいか。

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