第7話 異能・魔剣技


 魔剣が持ち主に与える三種の異能のひとつ、魔剣技アーツ


 こいつは平たく言えば、魔剣それぞれで異なるの高出力行使。

 剣に宿る千差万別な悪魔のチカラを瞬間的に増幅させ、一気に解き放つ技法。


 もっとも俺が持つ無銘レギオンは、その悪魔とやらが目覚めてすらいない第一段階の魔剣。

 固有能力どころかさえ分からない、という体たらくな有様。


 よって今から繰り出すのは、唯一あらゆる魔剣に共通して備わった技。

 シンプルゆえに扱いやすく、その性質も現状の打破に打って付けの代物。


 とは言え、魔剣技アーツ魔剣技アーツ

 発動に際して伴う負荷も消耗も、身体強化エクストラより遥かに大きい。

 まだ身体に魔剣が馴染んでいない現状では、一層顕著だろう。


 だからこそ使わずに済ませたかったが……そのせいで死んだら、元も子もないからな。


「邪魔だ」


 ハイエナのように俺を取り囲む下天使エンジェルたち。

 五体全てを力任せに弾き飛ばし、一足一刀の間合いから引き剥がし、一瞬の隙を作る。


 稼げた猶予は約二秒。

 対多だった初陣といい、チュートリアルにしてはシチュエーションが厳しすぎて参る。


 が、どうあってもやり遂げなければならない。

 文句や言い訳を並べたところで、この孤立無援の状況じゃあ、誰も助けてくれない。


 失敗したら死ぬだけ。

 そんな状況が冷静な精神と噛み合い、普段以上の集中力を生んだ。


「ふぅぅるる」


 姿勢を落とし、魔剣を腰だめに構える。

 併せて、蒼い炎──高密度のエネルギーを、剣身へと収斂させた。


「『飛斬スパーダ』ァッ!!」


 イメージを固める一助として技の名を叫び、横薙ぎに剣を振るう。


 立ちくらみに似た脱力感と共に、その切っ尖から蒼炎エネルギーが《射出》された。


「ぐっ……ぅ」


 斬撃を飛ばす魔剣技アーツ飛斬スパーダ

 三日月形の刃となった蒼炎エネルギーが、太刀筋の延長線上へと飛来して行く。


 向かう先は、第一射を撃った方のクロスボウ持ち。


 射線を遮る位置に居た剣持ち下天使エンジェル一体を斬り裂く。

 僅かに勢いを落とすも、そのままクロスボウ持ちも両断した後、爆ぜて霧散する。


「ふぅううッ……!」


 振り抜いた魔剣に、再び蒼炎エネルギーを纏わせる。

 魔剣技アーツの初使用が連射とは、なんともハードな要求。


 だがしかし、初太刀で要領は掴んだぞ。


「ブッた斬れぇッ!!」


 より疾く鋭く、刃を放つ。

 今度は二体の剣持ちを巻き込み、その先のクロスボウ持ちを仕留め、黒い石の壁へと衝突し、大きな傷を刻み付けて霧散した。


「う、くっ……」


 またも全身を襲う脱力感。けれど倒れるには少しばかり早い。

 あと二体残っている。


〈aaaa〉

〈aa──〉


 広間に響き渡る、およそ人間の声帯では発生不可能な高音。

 示し合わせたワケではないだろうが、左右から同時に攻撃を仕掛けてくる下天使エンジェルたち。


「……こ、のっ──」


 やや千鳥足を踏みつつ、都合四本の剣を躱す。

 直後の間隙を突くべく歯を食いしばり、魔剣の柄を握り締める。


「らぁっ!!」


 振り絞るような渾身で放った回転斬り。

 正確に首筋を捉えた剣身が、軽い手応えを二度、掌へと伝わせる。


 最後、慣性を御し損ね、床を擦る切っ尖。

 併せて下天使エンジェルの頭が二つ、俺の足元を転がった。






 魔剣を床に突き立て、片膝をつく。


「はーっ……はーっ……」


 視界が暗い。貧血を起こした時の症状に似てる。


 実際流れた時間にしてみれば僅かな間の、それでも相当な綱渡りの戦いだった。

 取り分け、ぶっつけで魔剣技アーツ発動とかノット正気の沙汰。下手すりゃ暴発してた。


 それを連射とか、やはりチュートリアルの難易度ではない。

 現実ってハードモード。


「ふぅ……っ……ン……?」


 あちこちで倒れた七体の亡骸が一斉に光の粒と化し、俺の魔剣に吸い込まれて行く。

 その現象に伴い、身体が随分ラクになった。


 なるほど。チカラが増すだけじゃなく、回復の手段にもなるのか。

 上手く利用すれば、連戦だろうと長期戦だろうと、ほぼ疲れ知らずで臨めそうだ。


 ……まあ、今回のような体験は二度と御免だが。

 命を懸けるなんてシチュエーション、人生で一回味わえば十分すぎる。


「さっさと帰るか……」


 離れ牢の中心である核石コアもまた、常夜外套で護られた存在。

 しかし本体は非常に脆く、力場さえ貫けば、触っただけでも容易く砕け散るらしい。


 いっそ飛斬スパーダ核石コアを直接狙った方が話は早かったかも知れないが、実行は避けた。

 核石コアの破壊と離れ牢の消滅に数十秒でもタイムラグが存在していたら、九分九厘その間に殺されてたからな。流石にリスキー過ぎる。


 …………。

 何はともあれ、唐突かつ傍迷惑なアトラクションは、これにて終了。

 期せずして魔剣士になってしまったが、今後のことは明日の俺が考えてくれる筈。


「頑張れ明日の俺──ッ!!」


 そう口ずさむ最中、咄嗟に飛び退いた。


 背中に氷柱でも差し込まれたような悪寒を受けての、反射的な行動だった。


 そして。その原因は、すぐに分かることとなる。


「なっ」


 広間の一角。

 俺と核石コアを結んだ線の、ちょうど中間あたり。


 何も無い虚空に──大きく亀裂が奔った。

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