拝啓、10年前の僕へ。

楠木祐

1章 開封

第1話

 高校二年生に進級した四月のことだった。僕の元に一通の手紙が届いた。それだけなら普通の話なのだが驚いたのはその手紙を送ってきたのが十年後の僕だったから。勿論、そんな馬鹿げた話を信じてはいない。けれど、筆跡が僕ととても似ていたので不気味なのは確かだ。まあ、筆跡なんて似せようと思えば似せられるとは思うのでやはりこの手紙は誰かの悪戯に違いない。

 そうであってもらわないと困るのだ。なぜなら、内容が恐ろしいものだったから。


 拝啓、渡部優也様へ。

 僕は十年後の貴方です。

こんなことを言っても疑り深い貴方は信じないことでしょう。

 だから、信じてもらう為にこれから起こることを何個か書いておきます。


・五月、片岡愛と友達になる。

・六月、中間テストで赤点を取る。

・八月、幼馴染の大引美月が交通事故で死ぬ。


 まあ、これでも貴方は信じないのでしょうね。

 もう少し、人を信じられていれば悲惨な未来にはならなかったのかもしれません。

 とても残念です。

 僕は今、底辺にいます。

 社会人にもなれず、家に引きこもっています。

 両親は悲しみを通り越して呆れています。

 だから、貴方に期待するしかないのでしょうね。

 他人に期待することが大嫌いだったはずなのに。

 それでは健闘を祈ります。

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