10月25日(木)(30日目)

 ピアス女に呼び出された。


 今週末に行われる学園祭に向けて最後の衣装合わせを行うとのことだ。どうせ野郎どもを引き連れて行くことになると思ったのだが、皆一度我が女装を目の当たりにして飽きたのかひょっとこしか同行しなかった。誰もついて来なくていいとは考えていたものの、いざついて来てくれないと寂しいものである。だが「僕は友達甲斐があるでしょう?」とひょっとこがドヤ顔をしたのに無性に腹が立ったので肩パンをお見舞いしておいた。


 さて何度目かの専門学校に入り、不細工な女装をした男子学生どもを目を汚しつつ呼ばれた教室に入る。ピアス女が水蒸気タバコをふかしていた。


 ひょっとこが「電子タバコなら教室で吸っても大丈夫なんですね」と関心したらピアス女は「ほんとは駄目だから秘密ね」と口角を上げた。


 なんでもニコチンも何も入っていない香料だけのタバコをどこで吸おうが問題ないだろうという理論であった。これが問題ならば口臭剤も駄目だし、香水は勿論アウト。昼食でニンニクをとった奴はギルティ、という理論らしい。


 間違っていないような、間違っているような理論を正面立って議論するのも阿呆らしく私たちは何も知りませんという態度で衣装合わせの話に移ろうとした。


 だが待ったがかかる。


 ピアス女から。


 衣装合わせよりも大切な話らしい。


 どうしたらテニス部のマッチョと仲良くなれるのかといえ話であった。ひょっとこは事前に聞き及んでいたのか「さあ良いアイデアをください!」などと人任せにする気満々であった。くたばれ。


 こういうものは灰色の送っている輩に聞くようなものではない。もっと薔薇色じみた青春クソ野郎に尋ねる案件である。


 だから「女装ミスコンに来るとか聞いていたから話す機会作ってやる。それでいいだろう? あとはそっちの努力次第ってことで」と場を作ることを提案した。中身はぶん投げた。


 向こうも俺のような非モテ野郎に期待などしていなかったらしくそれで合意に至った。しかし、これに茶々を入れた馬鹿野郎がいる。ひょっとこである。


「どうせなら後夜祭でお膳立てしてもいいのですよ? この人が」


 そうやって俺の肩を叩くものだからピアス女も「そう? じゃあお願いするわ」などと軽い気持ちで追加オーダーしてきた。オーダーは別に構わないが、いや良くはないが、その相手が灰色の青春を送るような冴えない野郎だということを忘れていないだろうか。初心者以下の料理人に任せるということは失敗する可能性だって十分ある。


 そんな俺の気持ちを察しているのかピアス女は憐れみを浮かべて「出来る範囲で構わないから」と続けた。もとより大して期待していなかったのだろう。宝くじを買う程度の期待感。当たったら儲け物ぐらいの気持ちだと思われた。


 なら精々、あとで恨みを買わないよう頑張るしかない。そう腹を括った。


 さて衣装合わせの結果であるが、最近の暴飲暴食が祟っていた。強制断食命令が下った。ファッキン。

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