10月23日(火)(28日目要素はなくはない)

 これは日記ではない。


 ドキュメンタリーであり、ノンフィクションである。


 そう記せば昨日あった続きを書けると思った。誰に見せる訳でもないのだから好きに書けばいいだろうがなんにでも様式美というとのがある。誰に見せる訳でもないのだから好き勝手に拘りたいところは拘るべきだろう。


 さて昨日は集団で固まる学生ら越しに声がした方を隠れて見た。やはり義妹がいた。辟易とした表情で館内にあるモニュメントを眺めていた。その隣には難しい顔をした父が腕を組んで歩いていた。何故かひょっとこも同行していた。


 義妹と父が学生証が必要なこの棟に入れた理由はひょっとこが招き入れたからだろう。どうやら本学のセキュリティ意識は地の底のようである。出席関連にはうるさい癖に。


 ひょっとこが同行している理由も一つ。義妹が俺の行方を知るためにひょっとこに連絡を取ったからであろう。話を聞いたひょっとこは「こりゃあ面白いことになりましたね!」などと喜び勇んで手伝いに回ったのだろう。容易に想像がつく。そしてひょっとこも俺の考えなどお見通しとばかりにここに連れてきた。悪魔かアイツは。


 幸い、こちらが先に気付くことができた。このまま歓楽街方面に逃げ出せば夜の街に紛れることだってできるだろう。多少金は掛かるかもしれないが背に腹は代えられない。義妹が合鍵さえ持っていなければ居留守だって使えたはずなのに。


 三人に気付かれず棟の外には出れた。


 たださらなる誤算があった。


 ひょっとこには謎の人脈もあれば、謎に扇動力もある。たいてい俺と馬鹿するためか、俺を馬鹿にしか使われないがあるのだ。つまり何が言いたいのかというと、出入り口全てに監視がつけられていた。らしい。


 裏口から出た俺を監視していたのは麗しの君だった。この時は監視していたなど露にも思わなかった俺はデレた対応をしてしまった。体よく足止めされてしまった。


「おやおや先輩じゃないですか。これは偶然」などと愛想のいい笑顔を振り向かれては男としては足を止めない訳にはいかない。


 そんでデレデレしてたとこを義妹に背後からタイキックを喰らい、ひょっとこと友人の一人に拘束され、ドナドナされていった。ケラケラと笑っていたひょっとこは許さない。とりあえず今日会った時に思いっきり腹パンしといた。麗しの君は申し訳無さそうにしてたから許した。可愛いは正義。


 此処から先は思い出すだけで頭の血管が切れそうになるため省略する。


 起きた出来事は次の通り。




・父が俺を怒鳴る


・責められる謂れのない俺は言い返す


・父が手を出して火蓋が切られた殴り合いの喧嘩


・妹が近所に助けを求める


・警察出動


・父をボコボコに殴り倒していたところを取り押さえられる


・事情聴取


・祖母、涙ながらに息子と孫を引き取るために二度目の警察署へ




 この世の地獄である。


 さてこれはドキュメンタリーであるが感動とは頭につかないタイプである。雨降って地固まるなんてことはなかった。被害届こそ父は出さなかったが勘当になった。今更だった。


 義妹は泣きじゃくり事情聴取した婦警さんに慰められていた。俺を事情聴取した警察官はヤリサー潜入事件で俺を取り調べた警察官と同一人物であり「また君か」と呆れられた。


 ノンフィクションであるこれには幸せなど待っていない。義妹は強制送還になったし、父はこの年になって祖母からガチ説教を喰らう羽目になったし、俺はお縄になったことをひょっとこが言いふらしたらしく「ついにアイツやったらしいぞ」と噂が流れた。


 誰一人幸せにならない一日であった。


 なのに今日、講義に出ても誰一人として心配してくれない。それどころか「脱獄しちゃ駄目じゃねえか」などと囃し立てられた。


 いや、一人だけ心配してくれた人がいた。


 ピアス女だ。


 わざわざ大学まで出向いて、俺の顔を見に来た。


「なんだ顔が腫れたりしてたらどうしようと思ったけど傷一つないじゃん。心配して損した」


 本当に顔を見に来ただけであった。


 これも一つの拘りであろう。。

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