10月21日(日)(26日目)

 昨日、ピアス女から協力を強制されたもののマッチョの連絡先など知らずにどうしたらいいのか困り果ててしまった。ひょっとこに聞けば教えてくれるだろうが根掘り葉掘り聞かれた上、碌でもないことになるだろう。性根が腐ってる。


 ゆえに今日は全てを無視して遊び呆けることにした。ここ最近妹や女装ミスコンやらで振り回されることが多かった。たまには俗世のしがらみから開放された一日を送ってやろうと心に決めていた。現実逃避とも言うが、見たくもない現実はどうせいつか向き合うことになるのだから、できる時にめいいっぱい目を背けるのはアリだろう。そうこれは英気を養うために必要なことなのだ! なんて昨日の夜に意気込んでから就寝したのだが、起きたら昼を過ぎていた。


 出鼻の挫け具合に心が折れそうになるが「いやいやこれは日頃の疲れを取っただけ。睡眠不足でふわふわする頭では満足に遊べまい」と自分に言い聞かせてこともなきを得た。


 そこからはノープランであったが夏休み最終日のようにパズルに明け暮れることはなかった。どちらかというと外に出て気分を晴らしたかった。


 自転車に跨り、秋風を浴びながら二十分ほど漕いで街に出た。ビルが立ち並ぶ若者向けの雑多な街。近くには飲み屋外もあり、丸一日時間を潰すにはうってつけであった。


 無論、時間を潰すのだってタダではない。だが今の俺には問題にならなかった。夏休みに入れた短期バイトの給料がようやく振り込まれたのだ。つまるところ無敵である。久しぶりに服を買い、靴も新調し、ゲーセンで気ままに遊び、夜は適当な個人居酒屋に入り酒を煽った。


 ポワポワとした良い気分で夜風に吹かれながら夜道を歩いた。両手には購入した衣類で物欲は満たされ、腹一杯になって食欲はなくなった。幸せとはこういうことを呼ぶのだろう。


 そんなことを考えて歩いた。


 三大欲求の残り一つが満たされていないではないかと浅い奴らは言うだろう。しかし、俺は紳士で真摯である。女性を性の捌け口には利用しない。ゆえに風俗などでお手頃に発散しないのである! などど夜道に一人嘯いて帰った。


 馬鹿野郎である。


 しかし、この時の俺は真摯である必ずや麗しの君と添い遂げると胸に誓った。夢は大きく、意識は高く、ついでに人に優しくなどと頭に浮かんだ耳障りの良い言葉を己が心に刻んでいた。


 やはり馬鹿野郎でしかない。


 そんなパッパラパーな馬鹿野郎に成り下がったが完璧な一日だった。


 そう思っていた。


 酔いが覚めてあることを思い出すまでは。 


 自転車を忘れたことを思い出さなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る