10月19日(金)(24日目)
今日見た夢は、女装ミスコンでマッシブな巨体に一目惚れされるという末恐ろしいものであった。なんなんだ。壇上に突然上がってきて愛の告白とは。しかも周囲が黄色い歓声で囃し立てるものだから断ってはいけない雰囲気。学友どもは面白がって助けてくれない。マッシブの友人であろう野太い声を発する集団は「断ったら酷い目に遭わす」みたいな目でこちらを睨んでいる。味方が誰一人いない悪夢そのものであった。
目が覚めて冷や汗まみれの身体に不快感を覚えるとともに、皮脂まみれの布団に安堵感を覚えていた。
それもこれもピアス女のメイク技術の高さと貧相な我が体躯が悪魔合体を遂げたためだった。我がやせ細った長い肢体は男性らしさからはかけ離れている。あえてそこに中性的な服装を合わせて、逆にそれっぽさを演出。男性らしさが残るそこへ女性らしさの発露である長髪を被せ、プラモデルよろしくメイクによる顔面の魔改造を行えば、そこにいたのはただの美人であった。通常時は目に光がなく無気力だなんだと揶揄される我が眼はアイシャドウによって無気力さが隠れ、冷たく落ち着いたな雰囲気へと変質した。つまりは滅茶苦茶クール系美女ということである。
それが青天の霹靂だったのだろう。
だから悪夢を見た。
願わくば正夢ならぬことを。
さて、いつもならば一つの物事を語って終わりだが今日はもう一つ書き記しておきたいことがある。
飲み会が催された。突然ひょっとこが「お呼ばれしたので一緒に行きましょう」などと誘ってきた。このひょっとこ、友達の少なそうな顔をしている癖に謎の交友関係があるらしい。どこまで本当かわからないがヤリサーの件もこいつの知り合いがいたから成立したといえた。流石に「地下格闘技の先輩に呼ばれているから今日は遊べないんですよ」と言われたのは体の良い断り文句だと信じたい。
お呼ばれした先はテニスサークルの飲み会であった。俺らが壊滅させたヤリサーとは異なり、ガチな方のテニス部であった。部内恋愛はなくはないらしいが、ガチればガチるほど男女互いに野獣の側面を見る機会が多くなって幻滅するらしい。ただ夜の方も野獣らしく辛抱たまらんとなって既成事実ができて、ずるずる結婚までゴールインが定番らしい。
そんな飲み会で俺らを出迎えたのはこれまたマッシブな爽やかスポーツマンであった。なんでもこのマッチョが俺らを飲み会に招待したとのことだ。学年は三年で、俺らの一つの先輩であった。招待した理由は「伝説のヤリサー潜入事件の当事者に会いたい」というもの。競合相手であったテニサーの皮を被ったヤリサーが壊滅したことで、ガチ部活である当テニスサークルが「どうせお前らもお盛んなのだろう」と白い目で見られることがなくなったらしい。
つまるところ俺らは知らぬ間にテニサーの英雄になっていたとのことだ。奢りで飲む酒は非常に美味く、マッチョとは先輩後輩の壁を超えて盛り上がった。それでいい気になって言わなくていいことまで言ってしまう。
学園祭で女装ミスコンに出場することを言ってしまった。
これはテニスサークル一同による組織票が集まってしまったことを意味した。
今酔いが覚めて馬鹿なことを言ったと後悔している。
古代ギリシャの詩人が言った名言がある。「酒は人間を映し出す鏡である」と。日記も鏡であると思う俺と非常によく似通った考えである。ただ日記は己の内に秘めておくのに対し、酒は己の恥部を討ち取った敵将の如く見せびらかすからタチが悪かった。
きっとこの詩人も内心の露出プレイをしてしまったに違いない。
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