10月18日(木)(23日目2度目の登板)
本日二度目の日記である。
日記というものを一日に何度も書いて良いのかという疑問はあるが書きたいことがあるのだから仕方あるまい。大体日本国民のほとんどが夏休みの宿題である日記をまとめて書くと言う悪行を重ねているのだから閻魔様だって御目溢ししてくれるだろう。
そんなわけで二度目である。
義妹がまた大学にいた。ここ最近毎日いる。もはや自主休講を繰り返す怠惰を極めた輩や本分そっちのけでバイトに性を出す輩よりも真面目に大学に来ていた。講義にもしれっと顔を出しているらしい。グループワーク以外はだいたい出席していた。欠席チェックは厳しい本学ではあるが、部外者チェックは酷く甘い。むしろ学習意欲が高いと見逃されているフシすらある。
流石に高校生が学校をサボって入り浸る場所ではないと兄として注意したのだが「オープンキャンパスだからセーフ!」などと拡大解釈をしやがった。
しかも最悪なことに麗しの君が所属しているグループに紛れ込めたらしく妹分として可愛がられているらしい。羨ましい。ああ、羨ましい。羨ましいだけなら良かったのだが、義妹が俺についてあることないこと口走らないか不安で仕方ない。
たたでさえヤリサー潜入事件の主犯格として悪い意味で有名な俺である。義妹が何か変なことを口にするだけで俺の評判もフォールダウンしてしまう。水と評判は低きに流れるものであり、その逆はない。それでいて人の評判に底はない。どこまでも落ちてしまう。滝登りなどというのは龍になれる素質を備えた鯉だけが成し得る御業であり、無論俺には関係のない素質である。
もう手遅れな可能性も否めないが、手をこまねいている理由もない。損切りという側面もなきにしもあらず。麗しの君に連絡を取って、妹に健全な高校生活を送るように言ってはくれないかと頼んでみた。
聡明な麗しの君のことである。きっと引き受けてくれるに違いないという見込みであった。妹を可愛がっているのだって知り合いの妹という点で気まぐれを起こしていると簡単に考えていた。だが返って答えは想定外のものであった。
「無理ですね」
義妹に弱みでも握られているのか勘繰ったがそうではないらしい。なんでも義妹に本学を勧めたのも麗しの君であるとのことだ。学力と出席日数に問題無いならばウチがどういう大学か見学していけばいいと誘ったらしい。これを聞いた時、頭を抱えて天を仰ぎたい気分だった。具体的には義妹には帰って欲しいが麗しの君に嫌われたくない二律背反で揺れていた。
結局、義妹がここに居続ける方がいずれ負債は大きくなると計算して「そこをどうにか曲げてくれないか」と頭を下げた。流石は麗しの君、男が下げた頭の価値を知っていたのか「先輩にそこまでされちゃあ仕方ないなぁ」と受け入れてくれた。
明日また会うときに言ってくれることになった。
これで大学には来なくなるはず。そう思うと気が軽くなった。天にも登る気分である。今ならば勢いだけで滝だって登れそうだ。愚者はそうやって挑戦し、滝から落ちて死ぬ。俺みたいな賢者はその気分のまま良い夢を見ることに終始する。
さて、今度こそ今日の日記は終わりだ。
良い夢を見よう。
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