10月16日(火)(21日目)
妹が現れた。
事前連絡もなしに突然。計画が上手くいったと綻ぶ子供みたいな顔をしていた。ただし、身内ではない知らない他所のガキンチョのもの。無性に腹が立つものであった。
講義へ向かう朝に家から出たら扉の横にしゃがんで待つ義妹に心底驚いた。横たわる蝉が突然息を吹き返したぐらいに驚いた。義妹はそんな俺を可笑しそうに見て、「兄貴、おはよ」などと言って片手を挙げてくる。その間にお隣さん(おそらく後輩)が固まる俺と妹を怪訝な目で見ながら頭だけ下げて、そそくさと隣を通り過ぎていった。きっと面倒くさい男女問題だと思われたに違いない。あ奴はそういう目をしていた。
どうにかこうにか時間をかけて自然解凍された俺は妹に何故ここにいるんだと問いかけた。妹はのんびり立ち上がると俺の手を引き、登校しながら話そうという。その道中、多種多様な無駄話が語られた。それらをほとんど聞き流し、要点だけ抜き出すと「麗しの君と遊ぶために来た」という事実が浮かび上がってきた。
あの女子会以降、仲が良くなったらしい。もはや、俺よりも仲が良いと自負される程度には毎日連絡を取り合っているとのこと。こちらがピアス女にひん剥かれた時もコイツは麗しの君とよろしくやっていたそうだ。くたばれ。
それならばわざわざ俺に会わなくてもいいだろうと質問を投げかけると、祖母が義妹に俺の様子を見てこいと指示を飛ばしたらしい。男子学生の一人暮らしは爛れるか、だらしなくなるか、反社会的運動に身をやつすのが相場だと心配していたらしい。
祖母的には爛れるぐらいにモテて、ひ孫の顔を見せて欲しい気持ちはあったらしい。現実はただひたすらに怠惰な日々を送っていた。野郎どもと騒ぐだけの灰色の青春を送る俺がひ孫を見せれるのはいつになるだろうか。なんだかんだ義妹の方がすんなり相手を決めて結婚アンド出産のコンボを決めそうではある。
大学も近づいてきた時、そういえばと思い出して尋ねた。「本命をウチの大学にするなんていうイカれた考えは改めたか?」と。
義妹は「いいや改まってないね」と笑う。両親からは東大もしくは有名私大を望まれていて、本人もやぶさかではなかったはずだった。ゆえに「何故志望校を変えた?」と重ねて問うた。
妹は俺を指差し「兄ちゃんが楽しそうだったから」とおどけた。
「そんな良いもんじゃねえぞ。面倒ごとに巻き込まれるしな」
ヤリサー潜入事件もあれば、先日ピアス女に身包みひん剥かれたこともある。今月末には女装する運命が待ち構えている。
「それでも笑ってんじゃん。高校生の時なんて死んだ目した顔しか見たことなかったのに」などと目を閉じて脳裏に浮かぶ何かを見ていた。
それが済んだと思ったら「あ、学園祭で女装すんでしょ? 見に行くから!」と話していないことを突然口にした。話を聞けば麗しの君から教えて貰ったらしい。とりあえず「来るな」と言って、やり場のない怒りを込めたデコピンを義妹に放っておいた。八つ当たりである。なのに「兄ちゃんがデコピンしてくれた!」と喜んでいる姿は若干恐ろしかった。
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