10月14日(日)(19日目)

 今日はひょっとこと学友どもに連行され、女装するための衣装を見繕うことになった。連れて行かれ先は専門学校。そこには俺の専用コーディネータとなる専門学校生がいた。衣装系ということもあり勝手にホンワカしたお姉さんかエキセントリックな芸術家タイプが作ってるのかななどと妄想を膨らませていたら、出てきたのは耳にこれでもかというぐらいピアスを付けた線の細い人相の悪いお姉様であった。怖いぐらい美人であるし、怖い美人でもあった。歴代彼氏全員の玉を蹴り上げてきたと狂犬と言われても信じてしまうぐらいには圧があった。


 そんなピアス女が俺を見るなりこう言った。


「もっとイケメン連れてきてよ」


 ひょっとこはヘラヘラ笑って答える。


「僕の友達にイケメンはいないもんでね」


 ついてきた学友どもの顔を見て女性は諦めたかのように溜息をついた。


「まーモブ枠ってことで好き勝手気軽にやれるならいいか」


 自分のことをイケメンなり、磨けば光る原石などと思ったことは一度たりともないが、このまま言われっぱなしは男として廃る気がした。これから女装する野郎が何を言っているとも思わなくない。いや、女装は男しかできないのだから何よりも男らしい行為と言えよう。


「そんなものは望んでいない。誰よりも美しくしろ」


 いくら鍛えても膨らまなかった薄っぺら胸筋を張ってピアス女の前に出た。


 ピアス女はふてぶてしさが気に入ったらしく「任せときなよ」と不敵に笑うと俺をパンツ一枚までひん剝き、採寸を取っていく。果ては残り一枚さえも剥がそうとしてくる。「コンプライアンス違反だ!」と叫んでみても「私が法律だ!」と身包みを全て剥がされてしまった。あまりの恐怖に普段は好き勝手に振る舞う愚息も怯えて縮こまっていた。


 学友どもも恐ろしいものを眼の前にしたかのようにただその光景に立ち竦むしかなかったという。すべてが終わったあと「あれは仕方ない」と慰めてくれた。その憐憫は身体中採寸された俺に対するものなのか、縮こまった姿を曝け出された愚息に対するものなのかは聞けなかった。


 ピアス女はひょっとこに手の平を上に向けて差し向ける。


「金出しな。衣装とか諸々はこっちで用意してやっから」


 経緯を知らなければカツアゲにしか見えない光景である。直前にあったことを考慮すると追い剥ぎである。


「では彼のことをよろしくお願いしますね」


 ひょっとこはケケケと笑いながら、ポンと数万円を財布から取り出した。こいつ実は良いとこのボンボンなのではなかろうか。


「そんじゃ今日はその汚いもん仕舞って帰って」


 投げて寄越されたパンツは怯えた愚息の上に被さった。


 男として何が大切なものを失った日であった。


 だが我が友たちは今日のことは掘り返さず「飲んで騒いで忘れよう」と奢ってくれた。


 男同士の絆が深まった気がした一日であった。

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