10月13日(土)(18日目)

 サブスクリプションサービスと聞いて何を思い浮かべるかは人次第だろう。音楽だったり、ゲームだったり。俺の場合は映画であった。


 月に映画一回分にも満たない金額を支払えば過去の名作から準新作程度のものまで楽しめる。流石に公開したばかりのものは映画館に運ぶしかない。無論、貧困学生である俺には手が出ないものである。そういったものは「サブスクに早く来ないかなぁ」などとショーケース越しにトランペットを眺める少年のように張り付くしかない。


 今日見た映画は数年前、俺が高校生だった当時話題になった映画である。恋愛映画であり、どちらかというとシリアスめな雰囲気を漂わせていた。原作は少女漫画のようだが、その中では大人向けに作られていたらしい。映画として仕立て直した際にその方針を強く打ち出したため、大人でも十分視聴に耐えられるものに仕上がっていた。もっとも根本の設定自体は変えようがなかったので、ヒロインを巡って二人の金持ちボンボンが争う頭の悪さを感じる設定のまま。今時では少なくなって逆に斬新みたいな意見も出そうだった。大人向けに描写をリアリティに寄せてはいるが、展開自体は王道であった。少女漫画のお約束を忠実に守っている。それが良いという声もあるのだろうが、俺にはそれが不満であった。


 ここさえなければ素晴らしいと言えたのが殊更残念である。


 何が残念かって?


 一途にヒロインを想ってきた野郎が恋愛レースに負け、男には嫌われるタイプの男らしさの権化みたいな輩がヒロインを射止めたことだ。何故あのようなタイプを選んだのか理解に苦しむ。作中でさえ飽きもせず口喧嘩するアイツよりも毎度仲裁してくれていた彼の方が幸せにしてくれるだろう。話の都合といえばそれまでであるが、それではあんまりでもある。


 俺は考える。


 男は下半身で物事を考える馬鹿野郎ゆえ、好みのタイプがいたらモンキーになるのは仕方ない。好みでなくとも女性だというだけで馬鹿になる愚か者もいるぐらいだから仕方ない。対して女性は男に対してシビアであると聞いた。だというのに物語では王子様よりも蛮族の長みたいなタイプを選びがちなのはどういった理由なのかと考える。


 だがいくら考えたところでチェリーでは答えに辿り着けないのは明白。


 だとしたら女性に問うしかない。


 だが困ったことに尋ねられる女性の知り合いがいない。義妹とは口もききたくないし、麗しの君にこんな低俗な話題を振るわけにはいかない。そう悩んでいてらひょっとこから「女装ミスコンでの衣装選びに行く日決めましょ」と連絡が来たから、ついでに意見を聞いてみた。女心わからなそうではあるが、俺一人悩むよりはマシだろう。


 返事はすぐに返ってきた。


「そんなのたまにしか愛してもらえないプレミアム感でしょう」


 │いつもあるものより《サブスクリプション》よりも│特別感滅多に行かない映画館が大事ということだった。

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