10月11日(木)(16日目)
ようやく祖母から一ヶ月分の軍資金が支給された。
それはひょっとこの機嫌を伺う日々から解放されたことを意味する。屈辱の日々であった。唯一の役得だったのは見かねた麗しの君がお弁当を作ってきてくれたことだろう。手作りの可愛らしいお弁当であった。女性向けの量であったことを除けば百点満点であった。いや、麗しの君が少食であることを知れたのはプラス評価なのかもしれない。
この軍資金を用いて一週間分の食材を買い込んで帰ってきたところでそれは起きた。
親父から電話が掛かってきた。
高三の時に警察沙汰一歩手前の喧嘩をして、碌に口をきいてこなかった親父からの電話である。亭主関白で頑固ジジイである親父からの連絡は間違いなく厄介ごとだろう。
無論出ない。出るわけがない
親父を許していないし、向こうもそうだろう。歩み寄りなんてあり得ない。もはや不倶戴天の敵となった我らなのだから。
絶対に伝えなければならないことならば祖母などを介して連絡するだろう。今ならば電車で来れる距離に義妹もいる。
もし掛け直してくるならば十中八九面倒ごと。それも直接言ってやらなければ気が済まない類。まあもっともそんなことはほぼないに等しい。不干渉決め込んでいるのにそんなことがあってたまるか。そう高を括っていたら、着信が切れてすぐにまた掛け直してきやがった。
こちらが何度無視を決め込んでも奴は掛け直してくる。こうあまりに煩いと課題も手につかない。半ば負けた気になるが実害が出ている以上背に腹は代えられない。だが絶対に出てやるものかという意地がぶつかり合った。その結果、着信拒否に落ち着いた。
ようやく訪れた平穏。
優雅に紅茶でも飲みながら課題に取り組もうと思った矢先、再度の着信。今度は祖母からであった。世話になっている祖母からの電話を無視する訳にはいかず、応答する。
祖母からのはずなのに義妹の声がした。
なんでも親父から電話に出るように言付けを預かったらしい。そこまでしてでも文句を言いたいらしい。俺は脳内の親父に向かって中指を立ててやった。
しかし、そうなるとどんな文句を浴びせたいのか気になるところ。もはや一年以上没交渉な我らの関係性。今更になって改めて喧嘩を売られるような事件は起きていないはず。
ゆえに「これも好機か」と義妹に探りを入れてみた。
義妹はあっけらかんと「志望校を兄貴の大学にしたいって言ったからかな?」と語尾を上げた。
間違いなくそれである。
問い質そうとしたものの「乙女の秘密!」と断られ、「んじゃお父さんによろしく言っといて!」と一方的に切られた。
きっと親父は義妹を唆したのは俺だと推理したに違いない。いい迷惑だ。誰が好き好んで義妹を後輩にしたいと思うだろうか。
何か理由があるはず。
それにばかり気を取られ課題は全く手につかなかった。
明日、朝一ひょっとこに頭を下げて課題を写させてもらうしかない。またあの野郎にご機嫌伺いすると思うと気が重い。
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