10月8日(月)(13日目)
空腹である。
腹が「飯をくれ」とうめき声をあげている。あまりにも煩く、水道水を詰め込み、抑え込もうとしたが腹がたぷたぷになるだけで声はやまない。
それもこれもあの義妹のせいである。あの義妹、食費と称して艶本の間に隠しておいた生活費を使い込んでやがったのだ。それに気づいたのは昨日のこと。手元の金がなくなったからそこから捻出しようとしたらなくなっていた。本棚の間に落ちたとか、別の本の間に入れていたか、など様々な可能性を考慮したが見つからない。
残る可能性を辿り、恐る恐る祖母に電話を入れ、義妹に代わってもらう。そこで得た答えは「んーラッキーと思ってお弁当買っちゃった」というあっけらかんとしたものであった。
「ヤバいのならお婆ちゃんから借りて返すけど」と提案を受けたものの祖母には色々と世話になっているゆえ、これ以上迷惑をかけられない。なので断った。武士は食わねど高楊枝で断った。
そして、後悔しているのが今となる。
昨日はまだ余裕があった。
腹が減りつつもヒモになりたいなどと言える余裕があった。今はもう腹が減った関係以外のことを考える余裕がない。腹が減った。
ああ、腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。死ぬ。まじで死ぬ。
祖母から次の生活費が振り込まれるの明明後日。それまでにどうにか一食確保しないと本当に死ぬ。貧乏人がよくやっているという手法で食パンの耳を買うというものがあるがそもそもパン屋とは縁遠くどこにあるかすら把握すらしていない。パン屋のパンなんて貧乏学生からすると高いんだもの。
強がらなければよかったと後悔している。だって今までの成功体験があったのだ。金欠でもどうにかなった自負があったのだ。
今までは野郎どもが残していった酒のつまみで食い繋いでいた。だが今回はここ数日で妹が在庫を全て平らげた。義妹を追い出した日の野郎どもからの持参品でさえも、祖母がマイクロバスで町内会の友達と飲み食いするために持ち帰ってしまった。金が無いなどと露ほどにも思わなかった俺は祖母の頼みに安請け合いしてしまった。
そして、今に至る。
低血圧で低血糖気味。おそらく顔面蒼白。身体中から栄養を寄越せと緊急事態宣言が出されている。「潤沢な栄養でなくていい。とにかくカロリーを寄越せ!」と吠えている。
何か食べたい。
とりわけ油ものが食べたい。カツ丼がいい。フワッフワの溶き卵が染み込んだカツを頬張りたい。肉はヒレだとなお良い。柔らかな肉と卵の甘み、旨味が染み込んだ玉葱をいっぺんに味わいたい。濃くなった口内に白米をかき込んで洗い流したい。
ああ、腹減った。
もう寝よう。
腹が減りすぎて寝れそうにないが。
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