10月7日(日)(12日目)
家猫といふ生き物がいる。好きなときに寝起きして、自由気ままに過ごし、腹が減っては食事をねだるか何かないかと物入れを漁る。野良猫のように狩りをしたりなどしない。そして、やることがなくなったらまた眠る。およそ人が理想する生活を送っている。人間ならばクズやニート、社会不適合者などと揶揄されるだろう堕落っぷりにも関わらず愛されてやまない。正直羨ましい。
いつか生まれ変わったら家猫になりたい。できるだけ金持ちの家で。と思ったものの輪廻転生が実在するなんて信じていないし、よしんばあったとしても今以下の生活になる危険性を考えると安々と来世にかけるなんてできない。
では今生においてそのような生活を送るにはどうしたらよいだろうか。一番は宝くじにでも当たって働かずして生きることだが、当たる気がしない。というか本当に当選者がいるのか疑惑の目を向けていたりする。
他に手段がないか考える。
数分して思い至った。
ヒモになれば良いのだ。
女性に取り付く寄生虫。特徴は顔が良く、愛嬌があって、働かないクズ。思い出したように家のことなどやってご機嫌取りをしたり、甘えて女性の自尊心を満たしたりする。あとは大体家猫と変わらないケダモノである。
ああ、ヒモになりたい。
働かずに女性に甘えて生きていきたい。
世の駄目男たちから羨望の眼差しを受けるのがヒモといふ生き物である。
だがなれない。俺はヒモどもが標準装備する二枚目フェイスなんて持ち合わせていない。
やはり世の中、顔なのである。ヒモも猫も顔がいいから許されているフシがある。もしこれが小汚い不細工だったら、すぐに家から叩き出されて終わりだろう。いや猫だったらブサ可愛いとか言われて飼われそうではあるので、ここはドブネズミとかゴキブリにしておこう。
悲しきかな俺は人間である。どちらかといえばドブネズミ寄りの。
かの哲学者ソクラテスもきっとヒモになりたかったであろう。だがクサンティッペを妻に迎えてしまったばかりにそれは叶わなかった。もしソクラテスがヒモになれていたのならば、その余りある時間をパチンコに有り金全て突っ込むヒモの如く、全て思索につぎ込んでとんでもないことを成し遂げていたに違いない。矮小なる我が身ではそれがなんなのかは想像すらできないが。
ここまで書いておいて、一つ思い出した。
古代ギリシャは奴隷制であったことを思い出した。つまるところヒモにならずとも面倒を見てくれる人がいる。もっと言うとソクラテスは市民という名のセレブであった。あの時代の哲学者は生まれにあぐらをかくプー太郎であるらしい。
実質ヒモである。
そうなると一つの結論に辿り着く。ヒモは哲学者に向いている。それは真であろう。その証左に某国民的RPGでも遊び人が賢者になるとされているのだから間違いない。
ああ、ヒモになりたい。ついでに顔も良くなりたい。
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