10月6日(土)(11日目)
平穏とは素晴らしい。
久しぶりにそれを思い出した
ここ数日、我が居城たる安アパートにはいつも義妹がいた。我が物顔で居座っていた。家主たる俺への気遣いは一切無く、それどころか「我、妹様ぞ?」と言わんばかりに俺に気遣いを求めてくる。なんだこいつと思ったことは一度や二度では済まない。
気遣いがないということは健全男子への配慮もないということだ。精神的な不満を貯めるとともに、肉体的な不満も貯めていた。俗に言えばシモの処理ができないでいた。保険の教科書ならば、運動や勉学に励み昇華することを勧めてくるだろう。健全過ぎて不健全である。それに俺から言わせれば、あんなもの限界まで己を追い込み、それで元気を失くしているだけである。イメージは健全であるが、実態は不健全なのである。むしろ、下手に昇華しようとするとフラストレーションから発散したくなる。先日の日記に思いの丈をぶつけ、より発散したくなった俺の体験談である。
その苛立ちは今は凪いでいる。
今日ようやく発散できたからだ。我が愚息は久しぶりにした運動でヘトヘト。昨日の聞かん坊具合が嘘みたいに大人しくなり、横になってスヤスヤしている。
ゆえに今日は冴え渡る頭を使った日記を綴ろう。
とは考えたものの、普段はその場のノリで書いている日記ゆえ明晰な頭脳を披露するに相応しい題材が思い付かない。学んでいることでも書けばいいだろうと浅はかな人間は思うだろうが、俺のようにまだ学びの途中だと自覚している人間は中途半端な知識をひけらかしたりはしないのである。
しかし、他に今日あったことで書けることといえば妹を追い出した時の状況ぐらいだろうか。
祖母は町内会の旅行帰り、その道すがらにある我が家に寄ったらしい。我がボロアパートの前に町内会でチャーターしたマイクロバスが停め、祖母が一人血の繋がらない孫を引き取りに来たのだ。
久しぶりに会う祖母は温泉に入って血行が良くなったのかツヤツヤしていた。年甲斐もなく走り出しそうなぐらいにエネルギッシュであった。そう思ったままを祖母に言ったら、あとニ十人ほど同じような老人がマイクロバスで待っているらしい。もしかすると現代社会に疲弊した若者よりも今の老人の方が元気あるのかもしれない。
そんな祖母に負けず劣らずエネルギッシュな義妹は、駄々っ子の如く抵抗を見せた。まるで昨日の聞かん坊な我が愚息のようであった。俺の家に居座るんだと俺の足にしがみつく。そんな義妹の両足を持って引っ剥がそうとする祖母。他人にこの状況を見せたら、血の繋がりなどないはずの二人に、血の繋がりを感じるであろう光景であった。
結局、祖母が若い衆(祖母より幾つか年下の老人たち)をバスから呼び、力づくで引っ剝がされた。そのままバスに押し込まれる姿は因習続く村人に襲われるホラー映画のワンシーンにも見えなくもない。もしくは引き篭もりを同意無く更生施設に叩き込む犯罪一歩手前の法人あたりか。
こうして義妹は去り、平穏は訪れた。
精神的にも、肉体的にも開放感を得た一日であった。
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