ブラックベリーシンドローム

霜月

ひとつぶのブラックベリーから

『今、若者のSNSではブラックベリーシンドロームという言葉が流行っています』


 なんじゃそりゃ。波瑠はる光希みつきの帰りをリビングでテレビを見ながら待った。


『この言葉をバズらせたのはクロノヒョウさんという』


 なんかよく分からないけど、変な言葉が流行ってるんだなぁ。テレビから離れ、キッチンへ向かう。コップにお茶を注ぎ、口元に運ぶ。キッチンからもう一度テレビへ視線を送った。


『だからブラックベリーシンドロームという訳ですね』

『そうです!』


 なんか大事なとこ聞き逃した。まぁいっか。リモコンでテレビの電源を切る。



 ガチャ



「ただいまぁ~~波瑠~~」玄関へ出迎えに行くと、光希は袋詰めされた大量のブラックベリーを抱えて笑っていた。


「おかえり光希。なにそれ」光希の手にあるブラックベリーの袋を持ち上げる。重っ。


「え? ブラックベリーだよ? 甘酸っぱくて美味しいんだって。職場の人にもらった。食べようよ~~。僕、洗ってくるね」光希はブラックベリーの袋を再び手に抱え、キッチンへ向かった。



 食べるの? 結構な量じゃない? 俺そんなにブラックベリーとか食べれないけど。



 光希の後を追い、キッチンへ向かう。ブラックベリーを丁寧に洗う、光希の後ろに立ち、覗き込む。


「いっこ食べる?」指先で掴まれた、ブラックベリーが口元へ来る。

「食べようかな?」軽く口を開けると、光希の指先が入ってきた。ぱく。


「指ごと食べるなぁ~~!!」

「ごめ~~ん、美味しかったで~~す」笑いながら洗ったブラックベリーをお皿に移し、リビングへ運んだ。



 お皿の上にこんもり盛られたブラックベリー。これを今から全て食べるというのか。今日の夕飯はブラックベリーだな。



「いただきまぁす~~おいし~~」光希が喜んでるならいっか。



 ブラックベリーをつまみ、食べる。食べる。食べる。食べる。食べる。食べる。食べる!!! 小さいくせに減らねぇえぇえぇえぇ!!!!



「光希、俺、もうブラックベリー要らない」波瑠は遠い目をした。

「ぇえ!! 食べてしまわないと!! 味変しよ!!」味変?


「まずは冷凍だよね」光希はジップロックにブラックベリーを入れ、冷凍庫に突っ込んだ。


「冷凍されるまで時間がかかるから、他の味変からしよ」光希は冷蔵庫から色々な調味料を取り出し、机の上に広げた。


「波瑠はこれね」マヨネーズを渡される。

「や、やだ!!!」絶対まずい。

「えっ、食べてくれないの?」光希は眉を下げ、悲しそうに見つめた。うっ。


「食べればいいんでしょ!! 食べれば!!」



 ブラックベリーに付けられた、黄色く、煌びやかなマヨネーズ。食が進まない。これは光希のため! 光希のため! 光希のため! 食べろ!! 波瑠!!



 ぱく



「…………うん、なんだろうね。口の中で味が分散する」

「じゃあこっちは?」海苔の佃煮。

「俺が付けて食べるの?」佃煮の入った瓶を受け取る。

「他に誰が食べるの?」光希は首を傾げた。



 むっ。



 瓶の中にブラックベリーを入れ、スプーンで一緒に掬う。


「光希ちゃあん!! 愛してるよぉおぉお!!」後ろから首に腕を回し、スプーンを光希の口の中に突っ込む。


「ちょっ! 待っ!! まっっっっずーーーー!!!!」スプーンを抜き取り、もう一口、口の中へ入れる。


「波瑠!! やめっ…ん~~~~っ!!! まっず!! 何がまずいって海苔がベリーを支配しているのに中から徐々にベリーという酸味のバイブル」光希はブラックベリーにわさびを付けながら語った。


「光希さん、俺、そのブラックベリー要らないです」わさびブラックベリーを見つめる。

「食えぇええぇえぇえ!!!」口の中に押し込まれ、そのまま床に2人で倒れ込んだ。


「まずいぃ~~辛味が鼻に抜けるのに甘酸っぱさが口に残る~~」そっと腕を光希の背中に回す。


「僕がその辛さを甘さに変えてあげようか?」光希はブラックベリーをひとつ口の中に入れ、波瑠へ顔を近づけた。


「お願いします、光希さん……っん」光希の手が頬に触れ、唇が重なる。唇の隙間から舌とブラックベリーが入ってくる。


 光希がこんなことしてくれるなら、ブラックベリーも悪くない。むしろもっと欲しい。


「っ……ん……んっ…はぁっ」しばらく舌を絡め合うと顔が離された。口内に残ったブラックベリーを感じ、なんだか恥ずかしくて、頬が染まる。


 光希が机の上からブラックベリーを一粒取り、かじっている。紫色の果汁が口元に垂れた。目を細め、艶かしい笑みを浮かべながら食べる姿に思わず見惚れてしまう。


「ねぇ、次はなにする?」光希が訊く。

「ブラックベリーシンドローム……」不意に口から出る。

「何それ」



 光希を抱きしめ、口元から垂れたブラックベリーの果汁を舌で舐める。甘酸っぱい。これがブラックベリーが引き起こすシンドローム? すごく甘くて危険だね。



「え? 知らなーい。早く続きしよ、光ーーっん」



 2人は再び、唇を重ねた。





 あとがき。


 BLラブコメ仕様に。

 不味いと甘いが相反していますね。

 ブラックベリーが引き起こす甘い症候群かな(笑)

 

 

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ブラックベリーシンドローム 霜月 @sinrinosaki

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