松下雪乃 その2
今日は12月24日、クリスマス・イブ。
恋人がいる人達は目に見えてソワソワしているし、そうでない人たちも何処か上の空と言った様子だ。
私もそのうちの一人。
明日のことが楽しみなような、怖いような。
窓の外には雪が降っていた。
明日も降るとなると、本格的なホワイトクリスマスになるだろう。
「松下は明日の予定とかあんの?」
飽きずに窓の外を眺めていた私に、隣の席から声ががかった。
「あるよ。浦和君は?」
隣の席の浦和君の顔が目に見えて曇った。なんでだろ。
「は、はは、俺の予定は今なくなった所かな……」
「?」
浦和君はがっくりと肩を落とした。
でもすぐに復活すると、私に詰め寄る。
「ちなみに、誰と明日を過ごすんだ?
松下の事だから家族ととか?」
クラスの人達が何やらコソコソと話している。
「浦和も可哀想に……」
「雪乃にはあいつがいるからねぇ、小学校からなんでしょ?」
「大野だろ?のんびりしてる同士気が合うのかねぇ」
よくは聞き取れないけど、幸太郎君の話をしているみたいだった。
私がその話に耳を傾けていると浦和君が私の顔の前で手を振ってきた。
「おぉ〜い、流石に無視は勘弁してくれぇ〜」
浦和君がちょっと泣きそうになっている。私は慌てて口を開いた。
「あ、うん。クリスマスの相手だよね。
大野幸太郎君っていう隣のクラスの男の子なんだけど、知ってるかな」
「大野?そんなヤツ部活生にいたかな……」
なんで部活動生限定なんだろう?
「ううん、部活には入ってないよ」
「えっ、松下は帰宅部が好きなのか??」
浦和君が何故か混乱している。
よくわからない人だ。
クラスの人達がまだヒソヒソ話を始める。
「何あれ?」
「浦和は単純な世界観で生きているからな。運動ができるイコールモテるだと未だに思っているんだ。
そのせいでイケメンなのに全然モテない」
「うわぁ……。ムードとかなさそうだもんね。
でも、ずっと松下一筋なのは結構好感度高いよね」
今度は浦和君の話をしているみたいだ。
クラスの人達の話も気になるけど、今は浦和君に意識を戻す。
浦和君は首を捻っていたが、すぐに考えるのを辞めたみたいだった。
「松下は……そいつと付き合ってるのか?」
「ええっ!?い、いや、付き合ってはいないよ?……その、凄く仲のいい友達、かな」
思わず頬が熱くなる。
幸太郎君が言うには、私はすぐ感情がほっぺたに浮かんでしまうらしい。今も私の心は見えてしまっているのだろう。浦和君は複雑そうな表情を浮かべる。
「うわ、バッドタイミング……」
窓際に座っていたクラスの人が、外を見て仰け反った。
なんだろう?
振り返った私は、思わず立ち上がりそうになる。
「よ、雪乃。明日のことなんだけどさ」
「幸太郎君!」
思わず声が跳ねそうになる。
私に軽く笑いかけた幸太郎君は、クラスの人たちからの視線に気が付いて口をへの字に曲げた。
「あ~、俺、なんか邪魔したかな」
幸太郎君の視線が、私の背後で止まる。
「別に」
浦和君の顔には、さっきまでとは別人みたいに挑発的な表情が浮かんでいた。
二人の面識はないはずなのに、どうしたんだろう……。
私はおろおろと二人の顔を見比べるしかない。
「大野っていうんだっけ。
俺、雪乃の友達の浦和陽介、よろしく」
私は思わず浦和君の顔を凝視した。今まで下の名前で呼ばれたことなんてなかったのに。
……もしかして、浦和君は幸太郎君に嫉妬してる?
いよいよパニックになって来た私は、浦和君が私にしか見えないよう、僅かに微笑んだことに気が付いた。
「そう、大野幸太郎。雪乃とは幼馴染で親友」
今度は幸太郎君に勢いよく振り返る。ちょっと首を痛めたかも。
親友だなんて初めていわれた……!
幸太郎君はちょっとむくれていた。浦和君に対抗心を燃やしているようにしか見えない。
「親友ねぇ。雪乃は明日のこと不安そうにしてたけどな。
明日の予定、俺が変わった方が雪乃も楽しめると思うけど」
不安そうにしてたかなぁ!?
「結構だ。俺が一番雪乃の事分かってんだから。
雪乃、明日学校終わったらクラスに迎えに行くから。いいよな?」
いつもは恥ずかしいからって、遊ぶときは校門で待ち合わせなのに!?
あああ!二人の考えが分かんないよ~!!
「ひゃ、ひゃい……」
噛んじゃった。顔が焼けるように熱かった。
幸太郎君が出て行った後、私はおずおずと浦和君を見た。
浦和君は一瞬だけ悲しそうに眉を下げたけど、すぐにいつもの明るい浦和君に戻る。
「好きなんだろ、あいつのこと。
明日楽しませてくれそうだぜ、よかったな!」
パニックも収まって、私も浦和君の意図が理解できた。
私のために、憎まれ役を買ってくれたんだ。
「でも、幸太郎君、浦和君の事誤解しちゃったよね」
「いいって。
……俺も松下のこと好きだからさ、上手く行って欲しいよ」
「うん、明日は頑張るね!」
浦和君は、私が思っている以上に私を大切な友達だと思っていてくれたみたいだ。
凄く嬉しかった。
「あ~、全然気が付いてねぇ。実質振られたな、あれは……」
「でも、浦和カッコ良かったな」
クラスの人たちがまた何かを話していたけど、今度は気にならない。
浦和君のためにも、私は明日に向けてのイメージトレーニングを始めた。
最高のデートにするんだから!
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