第3話『ばいばい!』(楓視点/別視点)
どうしよう。左目で見ると全てのものに黄色のフィルターがかかったみたいになる。
「おや、お目目が黄色になっちゃってますねぇ」
「なっちゃってますねぇ、ってなんだよ。せめて何が起きるか把握しておいてくれないか…」
「まあいいじゃないですかぁ。目は治ったんですしぃ」
チカチカして見にくいことこの上ないが確かに目は治った。せっかく貰ったサングラスは壊れてしまったけどね。
「ところで…一体何をしたんだ?お前の能力関連か?」
「あぁ、さっきのは飴玉に信号機の怪異のチカラを閉じ込めたんですよぉ。そのままにしておくとまた別の個体として復活しかねないので。ちょっとした思いつきで食べてもらっただけですぅ」
「お、思いつき…危険性があったらどうするんだよ」
「結果的に大丈夫だったからよかったじゃないですかぁ。まあ、危険性はあるんですけどね?
」
「は?」
こいつは何を言っているんだ?
「さすがに失明よりはデメリットが少ないと思って無理やり飲ませたんですけどねぇ?まあそんなことは置いといてぇ、妹さんが待ってますよぉ」
「いや、置いとくなよ…まあいいけどさぁ」
「初!怪異討伐ですからねぇ、お祝いしましょ」
⬛︎⬛︎⬛︎
「お家ってあそこ?」
「うん!お母さんも心配してると思うし、もう帰るね!」
空の異常が発生してから数時間が経ち、あの不可解な空の様相も収まった。
ジョーレンも維持できる時間がどうのとか言って帰ったし、保護していた小学生2人を家に返すことにした。幸いなことにさほど距離が離れてはいなかったので、ユリと一緒に近くまで送ってきたが、どうやら家は見つかったらしい。
大通りを挟んで向かい側の住宅から、母親らしき人が2人に向かって手を振っている。
「あ!お母さーん!じゃあお姉ちゃん、またね!助けてくれてありがとう!」
「うん!じゃあね、あかねちゃん」
「あと…お兄さんも元気でね。お怪我には気をつけて」
「…ああ、気をつけるよ」
僕たちに手を振りながら、2人が車通りの全くない大通りを横断する。
一時はどうなることかと思ったが、ひとまず無事に送り届けることが出来て安心だ。
「ぁえ?」
2人が踏みしめていた地面が一瞬のうちに陥没し、宙に浮く。よく見たら陥没した地面の上には…線路?
グチャっ
線路を認識した瞬間、突風を巻き起こすほどの速度で電車が僕たちの前を横切る。
「あかねちゃん⁈あおいくん⁈」
いつの間にかあの線路は消え、跡には小学生2人…だった赤黒いものが飛び散っている。
「うっ…ぉえ」
頭がグラグラする。
何が起こった?おそらくは怪異…であることは間違いないだろう。
だとしても、こんな…!あんまりじゃないか!
赤黒い、命だった肉片がコンクリートの上に悲劇のキャンバスを作り上げる。
見上げた空は、不気味なほどに晴れ渡っていた。
⬛︎⬛︎⬛︎
殺すか、殺されるか。
父も、母も、家も、金もないガキに、人権なんて高尚なモノは無いのだろう。
もうどれくらいの間、こんな生活を続けているだろうか。何度も、冬を越えた。
どうやら僕は他の人よりも身体が丈夫らしい。たしかこんな生活が始まった最初の冬、同じ裏路地で暮らしていた老人が死んだ。おそらくは体温の低下と栄養失調だろう。昔、本で読んだような気がする。遺体は川に棄てた。
それから何度目か冬が明けた頃、新しく初老の男が僕と同じ裏路地にやって来た。
話を聞く限りでは、経営していた会社の倒産…とやらがあったらしい。その知識はまだ知らなかったので、愚痴を吐かせるついでに経営や、経済についてを学んだ。
その男はどうやら病気を患ったようで、数ヶ月経つと寝込むようになった。
知識を得た恩もあったので、僕が回収した食料の殆どはその男に譲った。数週間全く食にありつけないような時もあったが、それでこの男が助かるなら安いものだ。
やはり、僕は人より体が丈夫らしい。
結局その男は冬になると、病を拗らせて死んだ。遺体は川に棄てた。感染症の蔓延とかするのだろうか?まあいい。僕には関係ない。
男の遺体を捨ててから数週間が経つと、全身生傷だらけの女がやってきた。
暴漢にでも襲われたのだろうか?僕にしてみれば、人を殴ったりして傷つけたりする人の気がしれない。
「坊や、あっちの方にパンとか金になりそうな物が落ちてたんだ。だけどお姉さんだけだと取れない所に落ちてたんだよね〜。半分こでいいからさ、助けてくれないかな?」
食事に、金。正直に言えば全く興味無いが、この女が助けを求めていると言うのならば着いていってやるのも悪くはない。
「いいよ。どこに行けばいい?」
「ありがと〜。それじゃ、着いてきて」
女は心底嬉しそうに笑う。助けになれるのなら、幸いだ。
「ここだよ」
「ここは…廃墟か?」
僕の問いを無視して、女は廃墟の中に歩みを進める。
「悪いが窃盗なら遠慮しておこう。少なくとも僕は、そんなことをしてまで生きたいとは思わない」
「違うって〜。ここ、誰も住んでないから」
そう言って女は、どんどんと先へ進んでいく。この廃墟はかなり広いようだ。
「あぁ、ここここ…今だよ」
「?」
女が何かの合図をすると、僕の背を狙って何かが迫ってくる。
「んなっ⁈」
僕に突き刺さる寸前で背後に振り向き、それを掴んで止める。これは…薔薇の蔦?
「ばれちったなら仕方ないね…出てきて良いよ、血汐」
「貴女が今だーとか言うからバレたんじゃなくって?瑕疵」
「うっさいなぁ。まあそんなことはどうでもいい…親切心で着いて来てもらった所申し訳ないけど、お命頂戴するよ」
あぁ、そういうことか…僕は嵌められて、殺されようとしている訳だ。
「なんでそんなことするんだ?ご覧の通り、僕は何も持ち合わせていない。家財の一つでもあれば話は違っただろうが…僕を殺しても奪える物なんて何もないと思うのだが?」
「あぁ、私たちがニンゲンならそうでしょうね」
「私達は…『怪異』。ニンゲンじゃないんだよ」
そういうと女達は人間然とした姿から異形へとカタチを変える。
最初の傷だらけの女は身体が膨れ上がり、頭や手足に鋭利な刃物が顕れる。
後に出てきた女は体から薔薇の蔦が伸び、頭が真っ赤な薔薇へと変化する。
「なるほど、そういう事か」
「…何?抵抗とかしないワケ?今まで何人か同じ手段で嵌めてきたけど、全員見苦しく足掻いてたよ?」
「抵抗した方がいいのだろうか?そう言うのなら抵抗するのも吝かではないが…僕は人を傷つけたくないんだ。出来るならやりたくないな」
「舐めてんの…?もういい!やっちまうよ血汐!」
傷の女がそう叫ぶと幾つもの刃物が僕に向かって飛来する。
だけど…見える。試しに指で挟んで止めてみると、安全に回収することが出来たので他の刃物も同じようにして回収する。
「まじで⁈ちょっと血汐!連携しよう!」
「確かに異常な反射神経ですね…これは今まで通りには行かなさそう」
そういうと薔薇の女の花弁が幾つか散り、空中で解けるようにして液体へと変わる。
あれは…血液か?さっきから血汐とか呼ばれているし、そうなんだろう。
今度は刃物と一緒に傷の女本体も接近して来て攻撃を仕掛けてくる。
点、線、面、全てに対応出来るであろう液体による攻撃と当たりどころによっては致命傷となりうる刃物の攻撃、そして肉弾戦…確かに、これなら余裕で殺せるだろう。
殺すか、殺されるか…僕は人を傷つけなくはない。だけど全ての人にこう質問したら、全員がこう答えるだろう。殺す、と。
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