第9話 冒険者ギルド

「おいおい、ヒト族のくせに、獣人の冒険者ギルドに何の用なんだ?」


「お~、ひょろいな~ヒト族は。しっぺしたら腕が折れちまうんじゃね?」


「マイアちゃんは回復だけしてりゃいいんでチュよ~」


「あんたたちっ!! この二人は、ベナマオ大森林を抜けてきたのよ? 変な事言うと、酔っ払い三人くらいすぐにボコられるわよ?」


 俺たち三人はめっちゃ絡まれている。いや、正確にはヒト族の俺とマイアが絡まれてる。マイアが猛然と言い返しているが、酒に酔った冒険者はお構いなしに暴言を吐いてくる。その息がとても酒臭い。


 彼らは荒事を生業にする連中だ。礼儀正しい人物は少ないと思っていたが、俺たちは案の定絡まれているわけだ。犬の獣人三人に。


 横にいるエリスは、猫の獣人だから絡まれないと思うが、上手いこと気配を隠している。彼女は奴隷落ちしているから、目立たないようにしているのだろう。


 反論しているマイアは、修道服姿の女の子。しかもヒト族。


 俺たち二人は、完全に舐められていた。


「ど、う、や、っ、て、俺たちをボコるんだよ?」


「ひっ!!」


 身長二メートル超えの犬獣人が、マイアの腕をつかんで引き寄せる。力が強いのか、マイアは身体ごと引きずられて、犬獣人の腕の中に収まってしまう。


「はい、そこまで!」


 パンパンと手を叩きながら現れたのは、奥のカウンターにいたイケメンだった。耳が尖っているので、地球の創作物と同じなら、彼はエルフという種族。緑髪ストレートロングで緑色の瞳。完璧すぎてまるで偽物のような顔立ちだ。


「あ、ギルマス! またこいつらが……」


 涙目でマイアが訴える。こいつらとはもちろん、俺たちに絡んできた獣人の三人組。それにマイアは、また、と言っているので常習犯。


 あと、ギルマス? このイケメンエルフはギルドマスターで、ここの責任者という事か。


「けっ! シラケさせんなよ、ギルマス」

「あ~酒が不味くなるわ~」

「場所変えんぞ~」


 犬獣人の三名はマイアを解放し、冒険者ギルドを出ていった。俺を睨みながら。何で俺? とも思ったが、割とどうでもいい。やっと落ち着いたので、ギルド内を見渡す。


 ここは木造四階建てで、至る所に魔法陣のような模様が刻まれている。奥にあるカウンターが受付で、別のカウンターでは酒と料理を出しているようだ。


 ツンと鼻を突く酒とタバコと汗の臭い。やだね~、こういう場所。


 フードコートかと言わんばかりの広さで、たくさんの机と椅子が置いてあり、四階の天井まで吹き抜けとなっている。


 というか、酒を出しているなら、酔っぱらいがいて当然だ。


 二階へ続く階段は、資料室と書かれた札がかかっている。色々と観察をしていると、ギルマスから声をかけられる。


「大変だったね。うちの者が絡んじゃって。私から謝罪させてくれ」


 そう言ってギルマスは、俺たちに頭を下げる。


「いえいえ、実害にあったのは俺たちじゃなく、マイアですし?」


 マイアはグニグニの涙目になっている。


「えっと、ギルマス? ですよね。早速なんですが、身分証の登録をお願いしたいです」


「身分証? 冒険者証の事かな?」


 俺の問いにギルマスがそう尋ねる。超絶イケメンすぎて、俺ですら気持ちが揺らぐほど。


 緑のストレートヘアはつやつやで、一本たりともけば立っていない。


 服装はいたって普通で、防具すら着けていない。ただ、凄くセンスのいい服を着ているように見える。この世界のファッションが分からないので、そんな気がするだけだ。俺にはよく分からない。


 ただし、シャツもパンツも、魔法陣のようなものが刺繍されており、魔法的な何らかがありそうな感じだ。


「惚れたにゃ?」


「惚れてないよ?」


 耳もとでぼそっと言われる。何を言い出すかと思えば、エリスの野郎……。野郎じゃないが。


「そだそだ、冒険者証です。森で何もかも無くしてしまったんで、お願いします!」


「そうかい。私はミッシー・デシルバ・エリオット。臨時でここのギルドマスターをやっているんだ。付いてきてくれ、手続きはこっちだ」


 臨時のギルマス? 獣人ばかりの自治区に、エルフという種族がいると、たしかに浮いて見える。


 マイアのようなヒト族は、ほとんど教会周辺にいたので、ちゃんと住み分けられているようだが、彼はどうなんだろう?


「君、この二人の冒険者登録をお願いできるかな?」


「……わかりました」


 ヒツジの獣人かな? もこもこの白い髪の毛に覆われた女の子は、ミッシーの言葉に、間を開けて返事をする。眉間にしわが寄っているし、あまりよく思われていないようだ。


 でも俺たちに対しては、特に悪感情はないようで、自己紹介をした後、きっちり受付の仕事をやってくれた。彼女はヒツジ獣人で、名前はテイラー・シェリダン。二十五歳で彼氏募集中らしい。何か余計な話まで聞いた気がするが、気さくで説明も丁寧。感じの良い女性だった。


 冒険者の仕事は、ギルド内にある掲示板から、依頼票を持ってきて受注するだけ。ただしランク分けされており、自身とその他に組む仲間のランクより高いものは受注できない。


 ランクの高い順にS、A、B、C、Dと下がっていく。


 五段階に分かれたランクは、仕事の完遂率で上下の変動があるそうだ。


 俺たちは一番低いDランクからのスタートだが、身分証として使えれば問題ない。


 懐事情もあるので、依頼を受けてお金稼ぎもしなければならないが。


 身分証が発行されたら、やる事は二つ。エリスの潔白を晴らし、佐山たちを捕まえる。これはしっかり頭にたたき込んでおこう。


「――というわけです。何か質問はありますか?」


「はーい! ランク低くて、食ってけないにゃ~」


 テイラー嬢の説明が終わると、エリスが当然の質問をする。Dランクの稼ぎはどう考えても、子供のお使い程度にしかならないのだ。


 街の外に出る依頼すらない。


「あ~、冒険者証を無くされたんでしたよね。前はどのランクだったんですか?」


「え~っと?」


 おいこら、こっち向くなエリス。質問したのはお前だろ。


 でも仕方ないか。ここはウソをついてでも、稼げるランクを言って――。


「どれくらいのランクなのか、私が直々じきじきに見てあげるよ」


 一緒に話を聞いていたギルマスがそんな事を言いだす。


 直々に見るって、どういう事だ?


「どうしたんだい二人とも。冒険者証を無くしたのなら、元のランクに戻る為の救済措置がある事も知っているだろう?」


「あ~? 知ってるにゃ!」


 その反応って、知らねえだろ! そもそもエリスは冒険者じゃ無かったはずだし。


「それじゃあ話が早い。練兵場でお手合わせ願おうか」


 練兵場? 兵を訓練する場所? マジか……。


 つまり、俺たち二人がどれくらいのランクに相応しいのか、戦って実力を見ると言う事だ。


 そこそこやっておけば、そこそこのランクだと認めてもらえるかな。


 俺たち二人と、マイア・カムストック、そしてギルマスのミッシー・デシルバ・エリオットは、冒険者ギルドの裏手にある練兵場へ向かう。


 ――――有り余る力を解放したい。


 その道中、そんなことを考えていた。

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