晴る明星

@thesea000

,,OO,,

 どちらにも思うところがあったのかもしれない。ただ、ボクもキミも、それぞれ歩みだした結果に過ぎず当事者たちが何を思ったところで、それはなるようになったと。ただ、それだけの事なのであろう。

,,Ep.OO,, 刹那と邂逅

 目覚めとともにただの板切れに手を伸ばす。昨今あったことから雑学まで色々なモノが流れては消えてゆく。擦り切れてしまいそうな荒波の中、一言のメッセージを見た。「やっぱり好きだな…」それは「感動しました」「すごく上手い」「[Emoji]…」などの雑多に紛れて見えたものの、明らかに違う。ほかでもないボク自身に向かって。とある少年Aではない、このボクに対して贈られたものであった。遥か昔に失ったはずのそれは、とうに諦めてしまったそれは、海月のようにふと、現れてしまった。これはそんなボクとキミのほんの僅かな邂逅の物語であった。

,,Ep.01,, プロローグ

 僕はとある研究員であった。とはいえ、はるか昔に流行った✗✗✗のウイルスであったり、ニンゲンの体を再構成できる素晴らしい細胞の研究をしたわけではなかった。しがない研究員でしかなかった。好きなものを追うことは難しい。なかなか才ある若者のようにはいかないからだ。そして、僕は若くして作曲家を目指した少年Aでもあった。ある人との約束で、大きな舞台を開くことを夢に、曲を書いている。新人賞を授与して数年、なかなか売れないままも、一部のコアなファンのおかげで今も細々続いている。いつかメジャーデビューできることを信じているが何百年後のことだろうか。研究をして、日が回ってから帰路につき、曲を書いて眠る。そんな生活を送っていた、ある日のことだった。

,,Ep.02,, 泡沫の思い

 「やはりキミだったんだね。」

「久しぶりだもんね。元気にしてるかな...私は今、学校の先生としてOO学校で働いているんだ。まだまだ思うようにいかなくて学ばないといけないことも多いけど(笑)」

「ジブンは前とそう変わらずだよ。」

「そっか。」

 〜〜〜〜〜〜〜

近況報告から他愛のない話をしつつ、徐々に会話が途切れ途切れになっていった。積もる話が。言いたかったことが。伝えなかったことを何度後悔したことか。それでも、いざその機会がきたらなかなか話せないものであった。

,,キミ,,は、なりたかった夢を叶えているらしい。今や立派な教師か...僕は昔から一歩も進んでないな。そんなことを思って少し気が引けてしまった。

「キミは本当にすごいな、ちゃんと立派に生きて。夢とかも叶えちゃって。」

「そうでもないと思うけど...ありがとう」

「誰かを導ける人になりたいって、困ってる人を少しでも助けたいって昔言ってたよね。そんなキミに比べてボクは。今も売れてないし、辞めたほうがいいのかな...」

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「私は好きだったけどなぁ、あなたの音」

「キミは今も優しいんだな」

残酷な現実に向き合うのはいつの日も心が折れそうになる。戦っている者にとって勇者は心を照らしてくれるが、時にその輝きに目が眩んでしまう。羨ましいな、と。そう感じてしまうのだ。

「あなたも大事な時でしょ?」

「え、、、」

「うん。実はね、、、」

 〜〜〜〜〜〜〜

「ずっと見てたの。諦めずに戦ってる、輝くあなたを。来月のコンテストに賭けてるんだよね、応援してるよ」

ずっと見ていてくれた。ずっとそばにいた。それだけで涙が出てしまった。悲しくもないのに、止まってくれない。愛も孤独も時に人を狂わせる。だから好きになれなかった。正しくモノを認知できなくなってしまうからだ。それでも、今はそんな気持ちを大事にしたいと思えた。

,,Ep.03,, 古びた約束

 「ときにあなた、あの約束覚えている?」

「??」

「忘れちゃったの?ずっと昔だし仕方ないのかな...今からだいたい1O年前のあの日のことだよ。」

「、、」

忘れるはずがなかった。忘れられるはずがなかった。そしてそれは叶う日が来ない願いだった。いや、そのはずだった。あんな昔のこと、あんなとってつけたような約束でも、未だに残ってたんだな、と約束の重みに再び圧されてしまった。約束はときに呪いと呼ばれるらしい。

「もちろんだよ。君の方こそ覚えてたんだ...」

「忘れるわけないじゃん。叶わないかなって諦めてた。だけど今、もう一度二人で話せてる。今があるんだよ?」

「うん。」

 〜〜〜〜〜〜〜

それからは簡単だった。トントン拍子で話はまとまった。

『3日後の夕方、例の場所で。』

,,Ep.OOO,, ノロイか、マジナイか。

 今ボクは電車に揺られている。はるか昔、ボクの大事な場所であったソコに向かっている。都市中心化が進んだ今、こんな場所数時間に1本しか通っていない。夕空に蜻蛉と並走しつつ、やがて分かれていった。

あのときと同じように、のどかでどこか安心する、そんな雰囲気の場所だ。

とある無人駅で降りた。改札もなければ掘っ立て小屋のような駅舎しかなく、自販機すらおいていないそこは、昔のままであった。ここからしばし歩く。手入れされていない草が伸び切った、舗装のとうに壊れた道を歩いていく。アスファルトを突き破って伸びる緑色には頭が上がらない。一本道をひたすら歩く。もう一時間は経っただろうか?ほんの数十秒だったかもしれない。雄大な自然と寂しさすら覚える茜色の空は、あんな迷信じみた呪いのためにこんなことをしているボクを嗤っているかのようで、時間感覚を狂わせる。

気の遠くなるような思いがしつつも、前に歩みを進めた。

傾斜のある道を越えた先でふと、開けた場所に出た。ここだけは何故か綺麗に整えられている。誰もいないはずのソコは、昔のままであった。一つのベンチと、柵を越えた先には全てを飲み込んでしまいそうな景色が広がっている。ふと呟いた。

「懐かしいな。」

 〜

「やっと来たんだね。」

どこからともなく、泣きたくなるような声が聞こえてきた。その声は、ボクと背中合わせなっているようだった。

「こっちを向いちゃダメだよ。あの話は覚えているよね?」

「うん、わかってるよ。」

背中から体温が、そして息が、脈が、その生命の証が伝わる。

「キミと居るとすごく落ち着くんだ。」

「知ってるよ。いつも言ってたじゃん。私もあなたの声を聞くと落ち着くんだよ。」

やがてボクを嗤った空は暗闇に染まっていく。茜は漆黒へと変わっていく。そんななか、二人はただ静かに。ただただ、そこに佇んでいた。

どれほどの時間が経ったであろうか。ふと、空に目をやると、きれいな金星が。オレンジ色に染まったそれは、ボクを粛々と照らしている。

「とても綺麗だね」

「」



,,Ep.04,, 信じたいものを信じる自由。

「ハクショッ…」

そういえば天気予報で今夜は冷え込むだとか。星の上がりきった空の下、静けさに満ちたその場所は、ボクだけが佇んでいた。

懐かしい。ココで、はるか昔に誰から聞いたのか空に向かって願い事をしていた。

「…とある13日の金曜日、その高台にて。明星は彼らを照らし、向き合うことの無い二人、心からの望みを一つ叶えてくれるだろう…」

こんな馬鹿げたホラ話を信じたのはボクだけだったのだろう。でも、不思議なことも…


,,〇〇,,

 今日も変わらず、いつも通りの日々を過ごしていた。努力は報われないし、コンテストは入賞することもなく、お祈りメールと共に終了した。ただ、いつもより、少しだけ前を向いていける気がしている。

「いつまでも、ありがとう

           (20OO.8.13.Fri.)」

ボクのケイタイには、何故だろうかいつまでも消したくならない、差出人不明のメッセージだけが残されていた。

               fin.

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