クレア、転生する?
クレアに転生したとき、彼女(西■寺 華■)は大学二年生の時だった。
彼女の死亡理由は、過労死だった。彼女の遺体は、生涯唯一といってもいい親友によって発見された。19歳にしては過酷すぎる運命を抱えた少女は、その生涯を終えたのだった。
○○○
私の最初の悲劇は、中学二年生のときだったと思う。父と母、三人でデパートに向かう途中の交差点。信号待ちしているときに起きた。父の前にいた黒い服をきた男がいきなり奇声をあげ、刃物を振り回し始めたのだ。その刃物は、ある人は腕を、ある人は頬を、脚を。そんな中父さんは母と私を守ろうとしたその時に男が父さんの脇腹を刺したのだ。それを父は抱え込み、犯人の動きを抑えた。その一幕は全部がスローモーションみたいだった。
「えっ?お父さん?、起きて、起きてよッ!お父さん!!!」
冷めていく父の身体を感じながら、父は息を止めた。
幸か不幸か、犯人は父を刺した後、周囲の男性によって確保されらしい。
その後のニュースでは戦後最大の無差別殺人事件として報道され、死者は父、たった一人だけだった。事件後私は、目の前で父が死んだ光景が離れず、不安を紛らわすかのように母にくっついていた。そして包丁などの刃物と生き物系が鍵になったのか、事件を思い出すようになってしまった。母は事件後ある種英雄となった父の妻としてメディアに追われ、悲しい事件を忘れることすら許されない生活から逃げるように、二人で転居を繰り返した。
そうした苦しい生活の中、高校2年の時に母は私を残して逝ってしまった。母の最期の言葉は、たった一言、「愛してる」だった。
わずか3年の間に両親を亡くした私に残された道は、辛いことを思い出さないように学業とアルバイトを過剰に繰り返し、空いた穴を紛らわすかのように大事に抱きしめた母から貰ったぬいぐるみ。帰っても「おかえり」の言葉が返ってこない灰色の世界。幸い見たものを忘れることのない私の頭は、大変優秀だったようで難関大学に全教科満点という異例の結果と共に首席で入学。逃げるように没頭した。
そんな中、支えとなったのはぬいぐるみと唯一の親友の存在だった。そんな欠けすぎた世界で生きる中、大学一年から感じていた不調を体現するかのように二年の初夏、バイトから帰り、ベッドに倒れるように眠りについた。二度と覚めることのない眠りについたのだ。
○○○
「あぁ、、、ここは、どこ、?」
目が覚めるとそこは自室とは全く違うところだった。辺りを見渡すと、そこは色鮮やかな花畑があった。身体を起こして、ゆったりと歩く。
「なんなんだろう、この花。見たことない、ダリアに近いけどそうじゃない?」
「あぁ、それは■■■だよ、綺麗でしょう」
返ってきたのは、鈴の音を鳴らしたかのような中性的な声。どこか安心するかのような声。驚いて振り返ると杖をもった青年がいた。白い髪に少し垂れた優し気な瞳。
「えっ、あの。あなたは、、、?」
「私の名前は、メガルド。そしてここは君たち人間の言う、天国?かな。とりあえず、こっちにおいで」
「はっ、はい(えっ、天国?死んだの私。)」
死んだと聞いてどこか納得してしまい、そんなメガルドに招かれ歩いていくとそこには、テーブルと椅子が置いてあり、おいしそうな飲み物とクッキーが置いていた。
「さて、と。君、死んじゃったんだ。西■寺 華■さん。これには事情がある」
「死んだんですね、私。それで事情って何ですか?」
死んだは死んだ、でも事情って何なんだろう。
「説明するには、因果というものを説明しないといけないんだけど、、、」
「確か、原因と結果の関係を表したもの、でしたっけ?」
そう答えるとメガルドは満足したようで深く頷いた。
「そうだよ。そして神側、つまり私からするともう一つ追加されるんだよね。それが運命。そう、何言ってんだって話だよね。」
「運命?」
「そう、運命。原因があって結果があり、それらをあらゆる運命という視点を通した上で因果が決定するんだ。これを因果といって君の場合は運命という視点の指向性が全てマイナスしかなかったんだ。規則上プラスもマイナスも等しく、なのにね。」
「つまり、どっちにしろマイナスな結果でしかなかった、ってことですか?」
「そうっ!それが今回の結果でもある。」
事情を聞いた私は納得する他なかった。
「なので、補填しなきゃいけないんだよ。君には特に。正直僕らから見ても酷かった。君のおかげで若干不十分だったほかの種の軌条因果も調節しなきゃいけなくなって、結構な影響が出たんだ。つまり、、、」
「補填?影響って何ですか?」
「君が死んだおかげで、地球上の生きとし生ける全ての種は適切な因果を辿るようになったんだ。これはすごい功績だよ」
メガルドの言葉の意味を理解はした。私の死が見知らぬ誰かの不幸を幸運に変換できたと。ただ納得できるものじゃなかった。そうして考えが巡りに巡って、出てしまった。
「こう、せき?えっ、、、なんでッッッ、私だって、私だって、幸せになりたかったッ!!お父さんは死なないでッ、お母さんは優しく抱きしめてくれてッ、幸せに、、、幸せになりたかっ、、ったあぁ。私の人生、何だったの、、、」
中2から始まった全てが超高速で過ぎ去っていく。5年間耐えたその糸は既に切れている。漏れ出た言葉は留まることを知らない。そうして吐き出していると、メガルドはそっと私を抱きしめた。
「ごめんよ、これは僕ら神々のミスだ。本当に済まない。全ての神を代表して謝罪させてほしい。本当に済まなかった。」
メガルドの言葉を聞き、事情を理解した。メガルドからの寄り添うかのような抱擁は私に久しい人肌の優しさを思い出させ、欠けた心の隙間を癒していった。
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