転生したので滅ぼすことにしました。

佐藤恩

転生したけど、女児からでした

クレア、いつかの日

「死ねッッッ」


彼女の振り下ろした黒鉄の鎌は鋭く輝いた。その輝きは盗賊の右手右脚を断ち切った。

切り裂かれた盗賊は、脚を失ったことで後ろに倒れこみ、クレアを見上げる形になる。


「いてぇぇえぇ...‼なんで、なんでおれらがぁああ‼」


クレアの周りには、戦った者や逃げ遅れた者が多くいたが、等しく痛みで気絶し、捕縛後に転送される運命を待つのみであった。


「んーっとねー?キミらが悪だから」


「はっ」


「君らはうちの領地で何人殺した?何度村を襲った?キミらのせいで何人がッ死んだ。ふざけるな、ふざけるなよ。お前らが襲った村の中にいたミミリーちゃんは、お母さんが大好きでいつも「お母さん、お母さん」って。母親と二人、幸せに暮らしていたのに。お前らのせいで、お母さんは今も目を覚まさない。ミミリーはずっと泣いてる。子供の笑顔を奪ったお前らに慈悲はない。殺さない。死なせない。死んだことを後悔させてやる。だから、君らは、悪だ」


クレアの言葉に盗賊は青褪めた。奪った食い物を仲間と笑いながら食いていたのがついさっき。一刻もたっていない。なのに、なのに、本当に一瞬のことだった。洞窟にたっていた見張りのジョンの悲鳴が聞こえた瞬間、隣でエールを飲んでいたモーラの両腕が飛んだ。それからは、地獄だった。白い女が黒い鎌を振り回しながら自分らを襲ってくる。剣を持った奴は腕ごと切られた。逃げようとした奴は足が切られた。詠唱使用した奴は口を左右に、杖を持った腕を切られた。意味が分からない。見えない、わからない、こわい。しかも、切られた仲間の姿を探してもどこかに消えてってる。逃げたい、いやだ。逃げようとしたその刹那、自分の脚と利き手が切られてた。


「えっ」


目の前のこいつはやばい、こわい。仲間の姿は見えない、みんなどっかに消えてった。わからない。


「お、お前は、悪魔かッッ!!」


「......キエロ」


その瞬間、俺はどこかに転送された。


痛みとなにかに酔った感覚で気持ち悪い。逃げれたのか。そう安堵した瞬間目に移ったのは人の形をした


「あなたで最後ですね。[赤獅子の盗賊団]団長グレン。全員確保したので移送します。シャロン、捕縛と治癒お願いします」


「はいよぉー。カワイそーだねぇ君。これから頑張りなよぉー。...ほいっ」


そういいながら切られた断面にポーションをかけた。その瞬間失くした右手と右脚が再生されると同時に身体が動かなくなった。縛られた、そう感じると同時にまた風景が変わった。


「ここは、、、はっ?おい、まて、ふざけるなッッ、待て待て戻どった

「黙れ、団長グレン。いや、犯罪者グレン。楽に死ねると思うなよ」


ここは、アーティカ侯爵領の騎士団本部の地下牢。盗賊が捕まった後は、想像に難くない。情報を吐かされ、拷問され、罪によって奴隷となり一生を以って償わされる。


最後の犯罪者がな場所に移送された後、本部の別室、通称クレア室にクレアが転移してきた。そこには、盗賊らを移送した等の報告をするために文官ナックルと数人の騎士がいた。彼らがみたクレアの姿は数多の盗賊を切り裂き、返り血に塗れており、艶やかな白銀の髪は血に染まっていた。そしてその手には、クレアの代名詞黒鉄の鎌[リコリス]があった。


「全員もってきた、あとはいつも通りにお願い。」


「クレア様、カッシュとマインの仇を取ってくれて、、、ありがとうございます、、、」


「カッシュもマインも、みんなのもちゃんと連れ帰ったから。どうか一緒に、家族のもとに。」


そう告げたクレアの蒼い瞳からは一筋の涙が流れ、身体は震えていた。そして他の騎士もまた唇を噛み締めながらクレアに敬意を、仲間に哀悼を。そうして今夜の大規模討伐作戦は終了した。


○○○


事後処理を終えたクレアは、屋敷に戻った。身体に付いた返り血を庭の端で落とし、風呂に浸かった。それから食欲も湧かず私室に帰り白いふかふかのベッドに倒れこみ目をつむるも眠れない。それからどれくらい経ったか。クレアは、父ギルベルトの執務室に向かった。


「失礼します」


執務室のドアを開け、中に入ると父は書類と睨めあっていた。


「お父様、ただいま帰りました」


そう告げると父は、顔をあげ、


「おかえり、クレア。無事でよかった、、、」


ギルベルトは今回の任務を思い出し、亡くなった者を思い出すとクレアの側にいき、頭を撫でた。


「二人を連れ帰ってくれてありがとう。」


虚無感を抱えたクレアの心を溶かし、父に勢いよく抱き着いた。

大好きな父の匂いと温かさに安心感を覚えたと、クレアは涙腺が崩壊した。


「お父、さま、ぱぱ。わたし、わたし、、、うぅ」


「頑張った。クレアはよく頑張った。ありがとう、ありがとう」


力の抜けたクレアの小さい身体を抱き上げるとソファに座り、父は力強く抱きしめた。その日は、父に抱き着いたまま緩やかに眠りにつけた。


○○○


父に抱き着いたまま寝たクレアは、大好きな父と母に挟まれて目が覚めた。


「ん、、、ぅあ、おはようぅ、パパ」


「おはよう、クレア」


「おはよう、クレアちゃん」


クレアの母エリスは抱き着き癖があるのか、一緒に寝るとだいたいがクレア抱き枕状態になる。そうして抱き着いてきた母と父の三人で話しているとクレアの失くした心がように感じた。


そして朝の支度を終えると、カッシュとマインの遺体が安置されている教会に向かった。


重い足取りの中、下だけは向かなかった。騎士の棺桶は平民とは違い、領主に捧げた剣であるため、殉死し葬儀の際には丁重に贈られる。そうしなければ、仕えた騎士が報われないと、神の元に辿り着けないとされている。


「おや、クレア様ではないですか。こちらに」


「ありがとうございます、ベル司祭」


二人が安置されている部屋へと司祭に案内され、扉の前に立った。


「では、私はこれで。」


「はい、ありがとうございます。ベル司祭」


そうして部屋の中に入ると、カッシュとマインの二人が眠っている棺桶を見つけた。

二人と過ごした思い出と共に涙が溢れてきた。しかし、声を上げることはしない。二人は誇り高く生きたのだ。マインはミミリーの母親を守ったらしい。カッシュは襲撃してきた賊どもを一人で6人も仕留めたらしい。二人は誉れ高く逝ったのだ。それなのにと、過る無念を振り払いながら、亡くなったみなの死後の安寧をただ祈った。


○○○


教会からの帰り道、馬車に揺られながら頭を巡るのは、亡くなったみんなとの思い出。それらの楽しかった思い出をしっかりと噛み締めながら。それと同時に窓から見える民、守るべき子供たち、守護するべき彼らをしっかりと見据える。間違えないように。同時に彼らに危害を与える賊ども、本能のまま襲う魔物らへの殺意を滾らせながら屋敷へと戻った。


これは、クレアが英雄だと、だと、呼ばれる。小さな女の子の物語







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