第12話


 1年前の自分から、その大莫迦野郎加減は何も変わっていないことに思い至る。右肩に乗るねこの頭――そこから伝わる彼女のやわらかな体温にいささか居た堪れない気持ちになってきた。あるいは時間が経ち、照れが減ったぶん、思いの丈は伝えやすくなっているはずなので僕の愚かさは相対的に当時よりひどくなっているのかもしれない。自分の不足に気づくことは成長の第1歩、と励ましの言葉を内心で唱えたくもなるが、不足に気づいてから1年も第2歩目を踏み出せていない現実に忸怩たる思いが湧いて出る。おそらく僕の現状は自分の不足に気づいていない無邪気な状態よりも遥かに質がわるい。


 そう気づくと共に、僕は自分の26年の人生をひどく無為に過ごしてきたんじゃないかという気がしてきた。僕は愛について語るより、もっと強さとか素直さについて語るべきだったんじゃないか、と。しかしそうした僕はおそらくねこには出逢えなかったんじゃないか、という気もするからたしかなことはわからない。あらゆるモノゴトの証明とは、長い時間が経過しないことには顕れないモノだからだ。少なくとも今の僕にできること――というかするべきことは、大きな後悔をする前に勇気を振り絞って第2歩目を踏み出すことである。


 電車が松戸駅のホームに着いた。隣のねこは眠ってしまったようだ。どうりで体温が高くなっていると思った。つむじがハッキリと見える。その頭皮すら、どこか愛らしく見えるのだから不思議だ。車両の扉が音を立てて開く。人の出入りはほとんどない。扉が雨降りの日の猫みたいな動きで気怠そうに締まり、列車は再度走り出す。あと30分ほどで僕の故郷に辿り着く。

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