第4話


 あの頃僕たちは愛について語り合っていた。あの頃、というのはモチロン高校2年生の時のことだ。愛を語らう相手が異性であったなら多少の色気もあっただろうが、残念なことにその相手というのは同じクラスの男ふたりであった。その上、学問に対する知的好奇心よりも閨房に対する好奇心――すなわち痴的好奇心――の方が遥かに旺盛な男子高校生のことである。話の筋が少なくない頻度で桃色の様相にすり替わっていくことがあったことは言うまでもない。色気がないどころか青春の爽やかさすらそこになく、思い返してみれば己が幼さに忸怩たる思いが溢れ出す。


 しかし、それでも。


 たしかに僕らは愛について語り合っていた。単に愛が何たるかを知りたかったというのもあっただろうし、何たるかもわからぬ愛を漠然と欲していたのかもしれない。ひょっとすると「愛」なんていう壮大なテーマを掲げることで自らの卑小さから目を背けようとしていただけなのかもしれない。今となっては何故そのような話ばかりに興じていたのか、その理由はよくわからない。けれど、そうしないわけにはいかなかった、愛について語ることの強烈な必要性――あるいは必然性――がたしかにあったのだという体感ははっきりと僕のなかに残っている。


 僕がここに綴る文章のいくつかは、そんな青い哲学の1部を抜き出したモノだ。ごく個人的なアーカイブ――有り体に言うならそういうことになる。

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