機械仕掛けの九尾(2)
「璃勾さん! 深追いは必要ありません! 高難度のダンジョンであればプロの探索者が目をつけるはずです!」
「でも、放っておいたら華たちがもちませんよ!」
荒れ狂うレーザー。
九本の尾がどうしようもなく厄介だ。三本もまとめて撃たれれば避けるのはほぼ無理。傷を治せると言っても喰らうたびに体力は削られていく。
一本でも注意を引きつけて被害を減らさないと。
『無理は止めなさい。あたしたちは倒されても休めば復活するんだから』
「でも痛いのは一緒だろ。それに復活するのは俺たちだって一緒だ」
『どうかしらね』
どういう意味だ。
尋ねようかとおもったものの、レーザーが来たので中断されてしまう。
こいつを使うか?
左手に握った秘密兵器をちらりと見てから思いとどまる。もっと決定的なタイミングで使うべきだ。
なら、別になにか打開策が、
「
主人の声に応じた青龍が咆哮。
思ったよりも高い声に驚いていると、タイプ
それらは集まり、九尾の四肢にまとわりつく。さらに硬化して動きを封じた。
もがいて破壊しようとする九尾だけど、晴は継続的に拘束を強化。
業を煮やした九尾はレーザーの対象をさらに増やした。
柊の治療が追いつかなくなってきたけど、
『足元をレーザーで砕くのはさすがに怖いみたいね』
「へえ。……なら、無理して裏に回らなくてもいいかもな?」
俺は向かう方向を変更。
敵の斜め前あたりから斜め後ろへと突っ込んだ。
九本の尾は当たり前だけど付いている場所がそれぞれ違う。
敵の巨体に半分隠れるようにして近づくと、九尾自身の身体が邪魔になって撃てない尻尾が出てくる。
撃てるレーザーも射線が絞れるので、雪の強化してくれている槍で防御。
とはいえ、チャンスは近づきざまの、
「一回だなっ!!」
尻尾は胴体に比べて細いとはいえ、マッチョの腕くらいの太さはある。
確実に壊すために思いきり、それでいて溜めは作らず──関節に向かって槍の穂先を突き入れた!
手応え、あり。
クッキー生地にフォークを突き刺したみたいに貫通。めき、と音がして尾の一本が折れ曲がった。俺を狙っていたそのレンズはあさっての方向を向いて沈黙。
その直後、俺は三本のレーザーに狙われて、
「う、お……っ!?」
『馬鹿、一回戻りなさい!』
慌てて巨体に沿って移動し、槍で直撃を避けてもなお、手足を何箇所か軽く焼かれた。激痛を堪えながら戻って、柊からの治療を受ける。
「無理しすぎです、璃勾さん。……でも、おかげで」
「はい。敵の攻撃力が九分の一減りました」
大したことないとか言うな。
今までは例えば華、碧、晴を三本ずつ狙うことができたのができなくなったんだから意味はある。
「じゃあ、攻め方を変えます」
「璃勾ちゃん、なにをするの?」
「ああ。この鳥居、使えないかと思ってさ」
言って、俺は跳躍。
神社にある一般的なそれよりは小さめなそれの上に飛び乗ると、次々飛び移るようにして移動していく。
『人間技じゃないわね』
「お前だってこれくらいできるだろ」
『そりゃ、あたしは足が四本あるもの』
同じところに留まらないようにすればそうそう当たるものじゃない。
俺を狙うレーザーが一本から二本に増やされてもそれは同じで。
「なあ雪? この槍ってあいつの装甲抜けるか?」
『胴体を貫通するのは無理だけど、突き刺すのは簡単よ』
「なるほど。……じゃあ、狙ってもいいかもな」
鳥居の上を逃げ回りながらタイミングを図る。
狙うのは、いまだ拘束を受けている脚。
槍をいつでも投げられるように準備して、角度と攻撃のスキを窺って、
「ここ!」
正真正銘、一度きりの攻撃が光の線を描きながら飛んだ。
命中。
一瞬、槍は抵抗のようなものを見せたものの、すぐに深く潜りこんで、拘束する土ごと九尾の右後ろ足を貫いた。
直後、がくん、と姿勢を崩す九尾。
拘束がなくとも、これで機動力は激減。
晴は「足止めは十分」と判断したのか、今度は空中に石弾を生み出して攻撃を開始した。
『やるじゃない、璃勾!』
「へへっ。俺だってこれくらいはやらないとな」
俺はふたたび先輩たちのところへ戻って。
「璃勾ちゃんすごい! お手柄だよ!」
柊は飛び上がりそうなくらい喜んでくれた。抱きつきそうな勢いだったのはさすがに状況を考えて止めたけど。
「ありがとう。それでさ、柊。槍の代わりにその杖、貸してくれないか?」
「これ? いいけど……」
「でしたらわたくしの武器を貸しましょう」
回復効率が下がるのを心配したのか、柊が迷うような様子を見せたところで、先輩が武器を実体化させてくれる。
槍に似ているけど、先端についているのが平べったい刃。
「先輩、薙刀なんて持ってたんですか?」
「護身用です」
なるほど、雑魚相手なら雪の強化込みで十分撃退できる。
華たちがこの姿になって防ぎきれない雑魚ってのもなかなか想像できないけど。
「ありがとうございます、お借りします」
「はい。遠慮せず、使い潰してください。道具の消耗で済めば安いものです」
先輩はそう言って九尾を見据え、
「これならば、勝てるかもしれませんね」
「俺たちだけであれを倒したら大手柄ですよね?」
「ふふっ。少なくとも報酬は弾んでもらえるでしょうね」
微笑んだ彼女は「璃勾さん」と俺を呼んで。
彼女の指が頬に触れると、温かな光が俺を包みこんだ。
身体が軽くなる。
力がみなぎってくるような感覚もあって、
「これは?」
「『強化』のスキルです。……もう一撃、決定打をお願いできますか?」
「任されました」
何度か薙刀の感触を確かめてから、再び鳥居に跳んで。
「すげえな。今ならなんだってできそうだ」
『実際、あなたは強いわ。恋と同等になる日も近いかもね』
レーザーが三本、俺に向けて飛んでくるも、雪に強化された薙刀もあってなんとか防ぎ切る。
『いえ。やろうと思えば、すぐにだって』
「ああ。……俺のスキルの強さってのはそこなんだろうな」
今までは「あんまり見た目が成長するのもなあ」って控えていた。
実際、そこが欠点なんだろうけど。
俺の『プリンセス・プロモーション』は回数制限がないのが最大の長所だ。
使えば使うほど強くなる。
『あなたのスキル、使いすぎたらおばあちゃんになるのかしら』
「怖いこと言うなよ」
美少女になるスキルだからそんなことはないと思う。たぶん。
ともあれ、今は、
「あと二回、行っておくか!」
さらに身体を軽くして。
ショーツさえきつくなってきたのを感じながら、俺は戦いの高揚感に押されるまま、暴走気味な身体を思いっきり動かした。
レーザーをかわし、九尾に鳥居伝いに接近。
敵から逸れた晴の石弾を足場にしてさらに跳躍すると、敵の『上空』に。
「行、けぇ……っ!!」
構えた薙刀を投擲して。
直後、俺を追いかけるように放たれた四本のレーザーに手足を焼かれたものの、もう薙刀は止まらない。
慌てて逃げようとしたって、脚を一本やられた九尾は逃げられない。
胴体に穴が空く。
衝撃のせいか、それとも強化された俺のパワーか。穴はちょうどよく、リンゴ大に拡大されている。
俺はそのそばに着地すると、残りの力を振り絞って槍を引き抜き。
「やるよ。博己のとっておきだ」
ピンを引き抜いた手榴弾を放り込んだ。
『ちょっと。あんた逃げられるの?』
「うん。いや、まあ、なんとか?」
『言ってないでもっと足を動かしなさい!』
さっき焼かれたせいで身体が重いものの、どうにかこうにか敵の上から跳んで。
爆発。
衝撃に揺れる身体。必死にしがみつく雪。そんな俺達を華がくちばしでキャッチ。
「いた。痛い痛い。悪い華、もうちょっと甘噛みで頼む!」
『贅沢言ってるんじゃないわよ、と言いたいところだけど、今回はあなたに同意するわ』
などと言いつつ振り返ると、九尾はその身体を大きく損傷させていた。
使い魔三体がかりの攻撃で外装もだいぶ傷ついていた。そこに内側からの爆発だ。
尻尾はまだ健在ではあるものの、制御コンピュータにも支障が出たのか動きが鈍い。
これなら、もう。
碧の上に落とされた俺が柊に怒られながら治療されているうちに、巨大ボスは水槍と石弾、炎弾によってその動きを完全に停止させた。
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