機械仕掛けの九尾(1)
どこかにたくさんの鳥居のある神社があると聞いたことがある。
実際どんな景色なのかよく知らないけど。
石畳による一本の道と、それに沿って立つ鳥居。
それが、ダンジョンの中心から広がるように『無数に』伸びている。
鳥居の道が中心に集まっている、という見方もできるか。
そして、中心には広場のような場所。
そこには一体の、巨大なエネミーがいた。
三階建ての一軒家程もある戦闘機械。
ずんぐりとした胴体に細めの頭。
足は四本。
短めで、動きが早そうには見えない。
その代わり、胴体の後部から合計九本のアーム、あるいは『尻尾』が伸びている。
尻尾の先にはビームでも放ちそうなレンズがある。
俺たちは、そいつを遠巻きに眺めて。
「……タイプ
先輩が、どこか呆然と呟いた。
九尾の狐か。
言われてみればそんな風に見えなくもない。神社に来たらこんなのが現れるとは、なにかの縁か?
計測された適性ランクは──俺たちの現在ランクを超えている。
やりそうによっては勝てるとはいえ、基本的には戦うべきじゃない相手。
下手に挑めばあっさりと殺されかねない。
非現実的な光景がいきなり広がったせいで『死』という結果が受け入れられないけど。
「申し訳ありません、みなさん。……わたくしのせいでこんな危険に巻き込んでしまって」
「そんな、月詠先輩のせいじゃありません!」
「そうです。それに、ダイブ中に死んでも現実に帰るだけでしょう?」
柊と博己が言えば、先輩は若干口ごもったうえで「……そうですね」と答えた。
「けれど、可能な限り応戦します。その間に応援が来る可能性もあります」
「っし。そういうことなら」
幸い、敵はまだ動きを見せていない。
頭のカメラはこっちを向いているものの、こっちがどうするか窺っているんだろうか。
なら、その間にと俺は槍を取り出した。
「博己、律さんを頼む。銃はストレージに入ってるか?」
「う、うん。……でも、もしかして璃勾と先輩だけで戦うつもり?」
「ああ。だけど、俺たちは二人だけじゃない」
「出し惜しみしていられる状況ではありません。久々ですが、使い魔をすべて召喚して戦います」
博己は自分の銃を取り出すとこくんと頷いた。
道の終わりは少なくともここからは見えない。敵から離れる方向に逃げれば安全だ。
「悪いけど、柊は『ヒーリング』がかけられる位置にいてくれ。敵は俺たちが引き付けるから、俺たちが怪我した時に治してくれ」
「う、うん、わかった」
「璃勾。練習で作ったアイテムなんだけど、良かったらこれを使って。一回きりだから慎重に」
律さんは探索者じゃないのでこういう状況は慣れてない。
一般人の護衛という大役を任された博己は、その場を離れる前に秘密兵器を手渡してくれた。
一発きりっていうのが残念だけど、なかなか役に立ちそうだ。
「おそらく、こちらが動きを見せればすぐに襲ってきます」
「じゃあ、合図で動きましょう」
全員が呼吸を整えてから、先輩がカウント。
3から静かに数えて、
「ゼロっ!」
俺は前へ。
柊、それから律さんと博己は別々に後ろのほうへ。
先輩は、その場に立ったまま三体の使い魔を召喚した。
「
空中に舞い上がるは炎を纏った一羽の鳥。
博己たちを守るように現れたのは全長三メートルはあろうかという巨大な亀。
そして、碧と少し離れてその身を起こしたのは大きな蛇、ならぬ、竜。
朱雀。玄武。青龍。
なるほど、そういうことか。
華と碧が大きいサイズでになるのは初めて見た。けど、先輩の使い魔が四獣──四聖獣を表しているとすると、
「おい雪。お前なんで猫なんだよ」
『失礼ね。あたしはれっきとした白虎担当よ。華たちだって普段は可愛かったでしょ』
走りながら言えば雪がそんな風に返してくる。じゃあ晴も普段は蛇なんだろうか?
それはともかく。
「道から外れても普通に走れるみたいだな。それなら動きやすい」
『あんた、敵の攻撃に気をつけなさいよ。当たりそうなら槍で払いなさい』
「レーザーなんか防いだら俺ごと蒸発しそうなんだけど」
『あたしが力を貸してあげるって言ってるの」
などと言っている間に敵も動き出していた。
俺たちを敵として本格的に捕捉。
身体の向きがこっちを向くと同時に、九本の尻尾がぶわ、と広がる。
俺は動きを止めないままレンズの向きを必死に確認して。
要は銃弾を見てかわすんじゃなくて、銃口の向きを見てかわすのと同じ──!
「っぐ!?」
「璃勾ちゃん!」
避けたつもりが肩をやられた。
焼けるような痛み。当たった箇所に穴が空いているのを見てぞっとしたものの、柊のスキルですぐさま治療される。
見れば、華が柊を持ち上げて碧の上に乗せていた。ああ、あれなら安全かもしれない。
それにしても、今の俺の反応速度じゃ追いつかない。
「二段階くらい上げるか……っ!」
『プリンセス・プロモーション』。
なんだかんだ使いまくってるけど、せっかくのレジェンドスキルだ、使わないと勿体ない。
胸のサイズがさらに上がり、ブラがきつくなる。
そういや今回はダイブスーツ着てないのか。
面倒なのでブラウスのボタンを引きちぎって前を開けた。
いったん敵への攻撃は諦める。
それよりも、華たちの攻撃の邪魔にならないように周り込む!
「っし!」
回避と移動に専念すると、今度はかわすのに成功。
柊と、ついでに先輩を碧に乗せ終えた華が舞い上がり、その翼から大きな炎弾を放つ。
着弾した炎は敵──九尾の装甲をなめ、焦がす。
機械だからちょっとやそっとじゃ燃えそうにないのが残念だ。
そのうえ、敵のレーザーが華にも。
数発の光線に焼かれた華が高い悲鳴を上げる。その程度で落ちる気配はないものの、たくさん喰らえばやばい。
その傷に柊が『ヒーリング』。
柔らかな光がフェニックス──もとい朱雀を包みこんで癒やしていく。ナイス柊。
碧もまた、水の槍を召喚して九尾を攻撃。
反撃が碧にも飛んでいくも、見えない壁のようなものがレーザーを妨害。
あれが、先輩が碧を防御役って呼んだ理由か。
「先輩、一人で怪獣大決戦だな」
『ええ。恋のスキルがレジェンド級なのがよくわかるでしょう?』
そう考えると俺のスキルがしょぼく見えてくるけれど。
ないものねだりをしてもしょうがない。俺は俺にできることをする。
「後ろまで回り込めば尻尾を狙えるだろ」
『そううまくいけばいいけどね』
雪の懸念通り、警戒した九尾は尻尾の一本で俺をマークしてきた。
頭以外にもセンサーがあるのか。
コンピュータ制御であるエネミーは違う敵への攻撃もなんなくこなす。
連続して放たれる光線を俺はなんとかかわし、試してみるかと槍で払おうとして、
「っぶね!」
腕にレーザーが当たりかける。
『馬鹿ね。ちゃんと狙って防ぎなさい。この位置じゃ
「ならさらに二段階上げてやるよ!」
合計で二歳分、これで俺は高校一年生、十五歳。
先輩と同い歳相当になったことになる。
急成長によって胸はさらに大きくなり、ブラがぷちっと弾けた。
どこまで大きくなったんだ俺。でもそんなこと気にしてる場合じゃない。
「これでっ!」
スピードと反射神経、動体視力、その他もろもろがさらに進化。
成長しすぎて慣れるのに時間がかかりそうなくらいだけど、今までより格段に視野が広くなって敵の動きもわかるようになった。
何度も撃たれたおかげでレーザーの来るタイミングもなんとなくわかる。
ここ、と狙って槍を振ると、今度こそきっちり命中。
「うお……!?」
すると、槍の穂先──どころか槍全体が輝き、レーザーを弾いていく。
すげえ。ゲームっぽく言うと魔法でもかかったみたいだ。
「今の、雪がやったのか?」
俺の頭の上に乗ったままの自称白虎は当然という態度で、
『言ったでしょ。あたしは金属性。その槍を強化するくらいお手の物よ』
そうか。
先輩が俺のところに雪をよこしたのには、そういう意味もあったのか。
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