再戦と買い物(前編)
試合開始の合図と同時にダッシュを開始。
ジグザグに走って相手の狙いを外しながら三十メートルの距離を詰めていく。
今回、俺は盾じゃなくて部分的なプロテクターを装着した。博己作で、壊れた時に破片が飛び散らず消える仕様を追加してもらっている。
おかげで間接や胸を守れるし、壊れた時逆に怪我する心配もない。
雪は危ないので後ろ、柊のそばに。
「っ。こっちも連射性能を上げてきたんだ、簡単にやらせるものか!」
八条たちも動く目標になんかターゲットを合わせてくる。
そこで、俺は大きくジャンプした。
「なっ!?」
空中は無防備になる。
下手に跳ぶと蜂の巣。これが機械相手なら無造作に追いかけられて終わりかもしれないけど、人間はどうしても予想外のことに動揺してしまう。
ついでに、上への射撃って慣れてないだろ?
大した被弾もなく着地すると、今度は身を屈めながら走る。
ある程度距離を詰めたところで槍を思い切り投げつけると、八条は待ってましたとばかりにそれを避けて、
「予想していなかったと思うかい?」
「ああ、お互いにな!」
俺はストレージから透明な盾を呼び出し、身体を守りながら直進を始めた。
回避のために態勢を崩した八条は銃を構え直すのにタイムラグができる。
残りの二人はリロードの時間が発生してしまうので、
「弾幕が薄く──!?」
多少の被弾は柊が回復してくれるし、今回、博己は銃に長めのバレルを取り付けて遠くから当てやすくしている。
ダメージがそんなになくても注意が逸れてくれれば十分。
撃ちながら後退していた八条&子分Bにはまだ届かないけど、子分Aには、
「おらぁ!」
ヒビの多くなった盾で思いっきりぶん殴った。
目を白黒させながらふらつくA。その手から銃をもぎ取って持ち主に三発。
直後、八条が所有者権限で回収して二丁拳銃に。
「また『成長』して対応するかい?」
「まさか。あれはヤバい時のとっておきだ」
俺は再びジャンプすると、ストレージから『二本目の槍』を召喚。
「ぐっ!?」
「ほら、避けてみろよ!」
投げた槍をBが転ぶような形で避けるも、上から投げ下ろしたので槍は床に突き刺さる。
着地と同時に引き抜いて、Bをひと突き。
AとBはリタイア。八条は舌打ちすると銃を消し、二本のナイフを取り出して、
「僕だって銃しか使わないわけじゃない!」
「いい判断だけど、接近戦は俺の領分だぜ?」
自らリーチの有利を殺した八条は、何度かの攻撃の後、俺の槍を捌ききれなくなってリタイアした。
「負けたよ。おめでとう。今回の優勝は君たちのものだ」
◇ ◇ ◇
「お疲れ。今回もまたきつかった。またやろうな」
「『きつかった』に『またやろう』が繋がるのが君らしいな。……もちろん、次は二学期にリベンジするさ」
七月の頭、五年生全体でのトーナメント戦が開かれた。
本当の意味での学年トップ決定戦。
決勝に勝ち残ったのは八条たちで、俺たちは彼らとあらためて戦った。
お疲れ様会的なのをやろうと誘うと、八条は渋々、という顔をしながらも乗ってくれて。
六人だと一テーブルに収まらないので隣では子分たちと博己がなにやら銃談義をしている。
こっちは俺と柊が八条と向かい合う形。
雪は、八条の膝に移動してあれこれいたずらをしている。気に入ったのか? それともおもちゃだと思ってるのか?
「優勝賞品は新しいダイブスーツなんだよね。ちょっと嬉しいかも」
「しょっちゅう着るから予備があっても困らないもんな」
後日採寸して発注がかかる予定だ。
俺としても毎日同じのを着てる関係上、すごくありがたい。
まあ、スーツは毎回洗濯するようなものじゃない。たまに風呂場で洗って部屋に干してメンテナンス剤を塗ったりでいちおうなんとかなってるけど。
「ふっ。それくらい僕は自分で買うから構わないさ」
「じゃあ二学期のトーナメントも優勝を狙うぞ。その頃にはスーツがきつくなってるかもしれないし」
柊を見ながら言うと「そんなにすぐ成長しないよー」と苦笑された。いや、小五から三年で『こう』なるんだから、五ヶ月もあればどっかきつくなってもおかしくない。
そんな俺たちのじゃれ合いを見た八条はため息をついて、
「……まったく。やはり君か、姫宮璃勾」
「? そりゃ俺は俺だけど」
「そういう意味じゃない。月詠先輩とのチーム、順調らしいじゃないか」
「順調っていうか、特訓に付き合ってもらってるっていうか。あ、でも小遣いはけっこう入ったぞ。見るか?」
「明らかに自慢じゃないか。けっこうだ。……今のうちにせいぜい腕を磨いておくといい?」
なんだ、意味ありげに笑いやがって。
秘密兵器でも開発してるとか? だったら俺ももっと腕を磨いておかないとな。
「夏休みはどうするんだい?」
「ああ、柊と博己、先輩で海に行くつもりだけど。お前も一緒に行きたいのか?」
「誰が。女子ばっかりの海水浴なんて気まずいだけじゃないか」
「日比野くんは男の子だけど」
「博己にも一回女装させてみるか」
「あ、似合いそう!」
俺の気持ちを味わわせてやる、とそんなことを言うと、隣から「やめてよね!」と本気の抗議。冗談だって、七割くらいは。
「ついでに近くの神社にもお参りしようってさ。神様がダンジョン攻略にもご利益くれるかはわからないけど」
「神社か」
ふと、八条の目がすっと細くなった。
「いいんじゃないか? だけど、気をつけたほうがいい」
「ん?」
「市街地から外れれば外れるほどデータ密度は低下し、セキュリティも下がる。ダンジョンの生成に巻き込まれるかもしれないぞ」
◇ ◇ ◇
「っていうか、水着ってこんなに種類あるのか……?」
「ここに売ってるのなんてまだまだ一部だと思うよ?」
週末、俺と先輩は柊に連れられて街に出た。
「わたくしは自分で調達すると申し上げたのですが」
「いいじゃないですか。みんなで選んだほうが絶対楽しいです!」
「ほら。柊はこういう奴ですよ、先輩」
諦めろと暗に伝えると、彼女は俺を見て「なるほど」と微笑んだ。
「さすが、璃勾さんのお友達ですね」
「はい。いい奴です。ちょっと変わってるけど」
「璃勾ちゃん? 璃勾ちゃんもかなり変わってるからね?」
軽く睨まれたので「ごめんなさい」をして真面目に水着に向き合う。
「男の水着って正直あんまり違いがわかんなかったんだけど」
「女の子のはわかる?」
「そりゃ、色も形もいろいろあるからな」
柄物の海パンとか必要か? シンプルなやつで良くね? 後は穿き心地だろ、と思っていたのとは事情が違う。
まず上下分かれてるか分かれてないか。それぞれに形がいくつもあるし、カラーバリエーションも男子用より多い。
腰にパレオとかいうのを巻くタイプもあるし……模様まで含めたら無限に種類があるんじゃないかって感じだ。
「逆に、これだけあるとどれがいいか迷うけど」
「自分が可愛いと思ったのを選べばいいんだよ!」
「柊はそう言うよな、うん」
可愛いかどうかと着たいかどうかは別だろ。
「なあ、雪はどれがいいと思う?」
なー。
一声鳴いた白猫は数秒間、売り場の水着を眺めた後、一着を指した。
「じゃあそれにするか……って、お前、真面目に選んでないだろ?」
選ばれたのは面積のかなり少ない、攻めに攻めまくったデザイン。しかも色は赤。
そのぶん、紐が何本も伸びて飾りみたいになっている。これだけしっかりしてればずれる心配も少ないし、若干格好良さも感じるけど、
「俺小五だぞ? 身体だって中二だ。派手すぎだろ」
なー。
「ふふっ。雪と璃勾さんはすっかり仲良しですね」
「仲良しって言うんですかね? こいつ、慣れたらだんだん遠慮がなくなってきた気が」
「では、璃勾さんの影響ではないでしょうか」
「それは……確かにそうかもですね?」
先輩が案外楽しそうで良かった。
彼女は水着を眺めながらなにかを考えるようにして、
「そろそろ、雪を璃勾さんのストレージに移してもいいかもしれませんね」
え、そんなことできるのか。
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