さらに美少女になった親友
前にもこんなことがあった気がする。
博己はまたしても緊張していた。
決闘の翌日、功労者である璃勾が学校を休んだからだ。
おかげで博己と茉莉はみんなから質問責めに遭って大変だった。
決闘の様子は生徒向けに配信されており、けっこう大勢が見てくれたらしい。みんな喜んでくれて、それは嬉しかったのだけれど。
璃勾がまたしても成長してしまった。
彼は例によって「服を買いに行く」と学校を休んだ。
成長するのを見越して最低限の服しか買っていなかったらしい。そういうところは目ざといというかちゃっかりしている。
十三歳相当に成長した親友は──。
「年上のお姉さんって感じだったなあ……」
中身が璃勾なので喋ると台無しだが。
背も高くなり、体型にもめりはりが出るようになって女の子らしくなった。
長くなった髪、はっきりと白い肌。近くに寄るといい匂いがするし、服を着ていても膨らみがわかるくらいの胸を見るとどきどきしてしまう。
あれは心臓に良くない。
せっかく慣れてきたところにこれで、正直勘弁してくれという気持ちはあるけれど、どうにか新しい姿にも慣れなければ。
と、待ち合わせ場所である街角で心に決めていると、
ざわ。
なにやら人がどよめく気配。なんだろうとそっちを見て──。
「あ。よう、博己。おはよう」
「璃勾!?」
中学二年生相当のお姉さん(璃勾)が初等部の夏服を着て、黒いランドセルを背負っていた。
ちょっと待って欲しい。
情報量が多すぎて理解が追いつかない中、博己は額に指を当てて、
「さ、さっそく衣替えしたんだね?」
「おう。このタイミングで冬服買っても使わないからな」
決闘が五月末だったのでカレンダーは六月に切り替わっている。
六月最初の一週間は衣替え期間。
確かに今、冬の女子制服を買っても使うのは三ヶ月後。
璃勾の場合、その間にまた成長してしまう可能性もある。
それで夏服か。
白いブラウスに薄手のスカート、リボンというごく普通の夏制服。
ブラウスは長袖も半袖もあるけれど、璃勾は当然のように半袖を選んでいた。
袖の先から覗く健康的な腕が眩しい。
スカートのほうは学校指定の長さのままでむしろ清楚だけれど、それでもソックスとの間に柔らかそうな太腿が覗いている。
おまけに黒のランドセルである。
「璃勾。……ランドセル、びっくりするくらい似合わないね?」
「あー、それな。なんかこれ妙に小さく感じるわ」
赤じゃなくて良かったと言うべきか。それとも赤だったら余計に人目を惹いただろうか。
周りの通行人が「あれで小学生……!?」とどよめくのもわかる。
まあ、ランドセルの黒と、制服の『着こなせていない感』から来るラフな感じが絶妙にマッチして「そういう子なんだろうな」という妙な納得感は生まれているけれど。
それから、
「髪も」
「おう。ポニーテールってやつにした」
長くなった髪はごくごく普通の黒のヘアゴムで無造作に纏められている。
本人は「このほうが動きやすいだろ」と納得している様子。
「……なんか、こうして見ると本当に女の子だね」
「? そりゃ、女になったんだからそうだろ」
そしてこの割り切りである。
更衣室やトイレを性別に合わせなくちゃいけない、というのはなんだかんだ納得したようだし、そこから考えるに「今の自分は女」だとは理解しているはずだ。
そのうえで「でも心は男だから」という点は譲る様子がない。
なんだか彼はいつまでもこの調子で、見た目は完全に女子をやりながら、中身は「姫宮璃勾」のままでいそうだ。
「ほんと、璃勾は変わってるよ」
しみじみと言ったら「おい、ちょっと失礼だぞ」とむくれられてしまった。
博己だってむくれたい気分だ。
なにしろ親友が女子になったと思ったら、なぜか柊茉莉とどんどん仲良くなっているんだから。
◆ ◆ ◆
「いや、柊はあれ、俺のことなんかなんとも思ってないだろ」
「そんなのわからないじゃないか。好きでもない相手にそんなに構うと思う?」
「俺のことは女扱いだからだと思うけどなあ……」
さすがにこの体型だと男子制服は合わないってことで女子の制服を買った俺。
合流した博己にいろいろ説明していたら、いつの間にか「柊との仲が進展しない」悩みを聞かされていた。
「そんなに不安ならさっさと告白しろよ」
「人ごとだと思って。告白しちゃったらOKされるか断られるかしかないじゃないか」
「告白しなかったらずっと現状維持だろ」
ゲームで考えたら「100%成功するようになるまでレベル上げてから」という気持ちもわかるけど。
レベル上げしてる間に他の奴に取られる可能性もある。
じゃあ、いちかばちかさっさと告白したほうがよくないか?
「璃勾。人ごとだと思って適当に言ってるだろ」
「そりゃそうだろ。人の恋愛相談なんか聞いてもどうしようもないし」
柊なら嬉々として相談に乗りそうだけど、本人にアドバイスを求めるわけにもいかない。
「まあ、お前がいいって言うならいいけどな。喧嘩されてチーム解散になっても困るし」
「チームまで解散するかもしれないんだ……!?」
あ、だめだこれ。
とりあえず現状維持がいいのかもしれない、という結論に至ったあたりで学校の門が見えた。
周りに生徒も多くなってきていて、クラスメートの顔も見える。
その中の一人、女子と目が合って、
「え、もしかして姫宮くん!? すっごく可愛いんだけど!」
「ちょっと待った。もうちょっと声を抑えてくれ。目立つ」
宥めようとしたもののその時にはもう遅くて、俺はめちゃくちゃ目立ちまくった。
「本当に可愛いよ、璃勾ちゃん! 髪はもっと可愛いのでまとめたほうがいいと思うけど」
「いいよ。まとめ直す時面倒だし」
柊も俺を一目見た瞬間から大喜びだった。
こうやって距離を近づけて来るから博己も不安になるんだろうけど……。
女子から一目置かれている柊が構うせいで他の女子まで寄ってきて、
「本当、姫宮くん、もう女子だね」
「いや俺は男子──」
「でも更衣室ももうすぐ変えてもらえるんでしょ?」
「ああ。たぶん今日が男子最後の日だな」
更衣室もトイレも女子にされても俺は男だけど。
「先生と話して、授業は男子として受けることにしたんだ」
「どうして?」
「俺が女子とやったら無双しちゃうだろ」
ある意味嫌味な言い方。
ただ、中二相当の身体+スキル補正があるのはみんな知ってるので「そりゃそうだ」と頷いてくれる。
「男子とやっても圧勝しちゃいそうだけど」
「そこは我慢してもらうしかないな」
男相手なら「悔しかったら強くなってみろ」と煽っても少しくらいなら許される。
「私も今度から姫宮さんって呼ぼうかなあ」
「いいね、姫宮さん」
「いや、姫宮くんのままでいいから」
「じゃあ今度から姫宮さんね!」
「聞いてくれ」
なんでこう、女子って押しが強いのか。
ほう。
「さて。……行きますか」
休み時間の後は体育だ。
今日は現実世界での運動なので体操着を持っていく。これもさすがにサイズが合わなくなったので女子用のを新しく買った。
背の高い女子用のも用意があって本当、助かったと思う。
「姫宮。今日はまだ、俺たちと着替えるのか?」
「おう。お前らもそのほうが嬉しいだろ?」
なんか遠慮がちに聞かれたのでそう答える。
するとそいつはなぜか目をそらしながら「ま、まあな」と濁した。
なんだ、別にそんなに嬉しくないのか。
「まあ、そりゃそうか。男の身体なんか見ても意味ないもんな」
女子が俺を女扱いするからそれを当たり前だと思ってたけど、中身を見てくれるほうが俺としては嬉しい。
例えば博己だって、柊が元男だったら付き合いたいとは思わないだろ。
「っつーか授業は今まで通りなんだし、大して変わらないか。最後とか気合い入れてみたけど」
「そ、そうだな。見た目がちょっと変わったからってお前はお前だもんな」
「そうそう。わかってるじゃん」
なんて話をしながら更衣室に着いて、
「璃勾。あのさ、一番奥で着替えなよ。僕がなるべく隠すから」
博己に囁かれた。
頬が赤くなっていて、俺に配慮してくれたのはわかるんだが。
「なんだよ、別にみんな気にしないっていってるぞ。なあ?」
ブラウスのボタンを外して、下に着けていた黒いブラを見せると──みんなはごくりと唾を飲み込んでこっちをじっくり眺めてきた。
「……でっか」
「おい、こら。さっきと言ってること違うぞお前ら」
脳をエロに支配されてるんじゃないのか。
この時だけは、女子がたまに言ってる台詞を借りたくなった。
ほんと男子ってさいてー、ってやつ。
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